レッドハットがエッジ市場に本格参入、「Red Hat Device Edge」を展開:エッジコンピューティング
エンタープライズ向けLinuxディストリビューション大手のレッドハット(Red Hat)が、エッジコンピューティング市場に本格参入する。「KubeCon+CloudNativeCon North America 2022」において、産業機器向けにコンテナアプリケーションを柔軟にデプロイするソリューション「Red Hat Device Edge」を発表したのだ。
エンタープライズ向けLinuxディストリビューション大手のレッドハット(Red Hat)が、エッジコンピューティング市場に本格参入する。2022年10月25日(現地時間)、米国デトロイトで開催中の「KubeCon+CloudNativeCon North America 2022」(同年10月24〜28日)において、ロボットやIoTゲートウェイをはじめとする産業機器向けにコンテナアプリケーションを柔軟にデプロイするソリューション「Red Hat Device Edge」を発表するとともに、ロッキード マーティン(Lockheed Martin)との間で、Red Hat Device Edgeを用いてUAS(無人航空機システム)など軍用プラットフォーム向けのエッジAI(人工知能)開発で協業することを明らかにした。産業オートメーション機器を手掛けるABBも、エッジプラットフォーム「ABB Ability Edgenius」にRed Hat Device Edgeを採用する計画である。
Red Hat Device Edgeは、エンタープライズシステムと比べてCPUの処理能力やメモリなどのリソースが限られる産業分野のエッジコンピューティングシステムにおいて、アプリケーションを柔軟にデプロイ/アップデートできるコンテナ技術の活用を目的に開発された。構成としては、Linux OSは「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」を採用するとともに、レッドハットのKubernetesコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift」のエッジ機能を基に構築された軽量のKubernetesオーケストレーションソリューションである「MicroShift」の組み合わせとなっている。
MicroShiftは、現時点ではオープンソースプロジェクトで開発が進められている。Red Hat Device Edgeは、2023年前半に開発者向けプレビューを、同年後半に完全サポート付きソリューションの提供を始める計画であり、これと併せてMicroShiftもエンタープライズ対応/サポート付きディストリビューションを用意することになる。
2022年10月27日に東京都内で開催されたレッドハットのユーザーイベント「Red Hat Summit: Connect Japan」に合わせて来日した、米国レッドハット 製品統括 シニアバイスプレジデントのアシェシュ・バダニ(Ashesh Badani)氏は「既存のソリューションをスリムダウンし、エッジコンピューティング向けに必要なものだけをパッケージにした」と語る。実際に、エンタープライズシステム向けのRed Hat OpenShiftの場合、ハードウェアの最小要件は4CPUコア/RAM容量16GBだが、Red Hat Device Edgeは2CPUコア/RAM容量2GBまでサポートするという。また、CPUについても、エッジコンピューティング向けでの共同開発を発表しているインテルだけでなく、組み込み機器などで広く利用されているArmにも対応する方針である。
サポート期間については、ロッキード マーティンやABBなどの先行ユーザーによるフィードバックを反映しながら長期間の利用が想定される産業機器に対応していく考えだ。「Red Hat Device Edgeはコンテナを活用するプラットフォームなので、OTA(Over the Air)によるアップデートも前提になってくるのではないか」(バダニ氏)。
またバダニ氏は、スペインにおけるRed Hat Device Edgeの先行採用事例として、風力発電システム向けのアプリケーションを紹介した。風力発電大国として知られるスペインだが、回転する風車の羽根に絶滅危惧種の鳥が巻き込まれて死んだ場合に罰金を科せられる規制がある。そこで、風車の周囲をモニタリングして近づく鳥を検知し、それが絶滅危惧種の場合には風車の動きを止めるシステムを開発しており、そこでRed Hat Device Edgeが活用されているとのことだった。
なお、Red Hat Summit: Connect Japanの展示会場では、Red Hat Device Edgeをイメージしたデモ展示が披露された。「RaspberryPi 4」を搭載するロボットカーとNVIDIAのエッジAIボード「Jetson AGX Orin」に、MicroShiftを使って遠隔制御と音声認識のアプリケーションをそれぞれデプロイし、音声認識によってロボットカーを操作するという内容だ。RaspberryPi 4とJetson AGX OrinはWi-Fiによって無線で接続されており、ミドルウェアの「Skupper」によってKubernetesクラスタ間を直接つなぐことで、セキュアかつ低遅延の通信が行えている。
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