検索
ニュース

車載ソフトウェア開発を容易に、TRI-AD独自の開発プラットフォーム「Arene」車載ソフトウェア

トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)は2019年12月17日、東京都内の新オフィスの全エリアが本格稼働したと発表した。これに合わせて、報道向けに社内の一部を公開。同社独自の開発プラットフォーム「Arene(アリーン)」を使って、自動運転車のコックピットの開発とテストが簡単に連携する様子などを披露した。

Share
Tweet
LINE
Hatena

写真左からTRI-ADのジェームズ・カフナー氏と鯉渕健氏(クリックして拡大)

 トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)は2019年12月17日、東京都内の新オフィスの全エリアが本格稼働したと発表した。これに合わせて、報道向けに社内の一部を公開。同社独自の開発プラットフォーム「Arene(アリーン)」を使って、自動運転車のコックピットの開発とテストが簡単に連携する様子などを披露した。

 TRI-ADはトヨタ自動車、デンソー、アイシン精機の共同出資会社で、2018年3月に設立された。トヨタ自動車の米国子会社Toyota Research Institute(TRI)などが取り組む自動運転技術に関する研究を、トヨタ自動車本体の製品開発に橋渡しする役割を担う。

 TRI-ADのCEOであるジェームズ・カフナー氏は「われわれの役割は、ハードウェア向けのトヨタ生産方式をソフトウェア開発で実現することだ。オーナーカー向けの自動運転や、無人運転のMaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして 利用すること)向け車両で求められる大規模で複雑なソフトウェアをどう効率的に開発するか。ワールドクラスのツール開発とエンジニアリングによって、トヨタグループのソフトウェア開発を変えていく」と語る。

 現在、TRI-ADで開発するのは、高速道路向けの自動運転システムと、レベル4の自動運転システムだ。高速道路向けのシステムは2020年にも製品化する予定で、高い処理性能やディープラーニング(深層学習)の採用、LiDAR(ライダー、Light Detection and Ranging)を含む複数方式のセンサーによる全周囲センシング、冗長化による信頼性の向上、ドライバーとクルマのシームレスなコミュニケーション、無線ネットワークによるアップデート(OTA:Over-The-Air)などがTRI-ADで扱う技術テーマとなる。

 レベル4の自動運転システムはMaaS向けで、先述した高速道路向けの自動運転システムよりも長距離の検知が可能な次世代LiDARや、「性能が1桁上」(TRI-AD CTOの鯉渕健氏)のコンピュータを搭載する。すでに、レベル4の自動運転システムを搭載した開発車両の走行試験を日米で行っている。真夏の東京の暑さに耐えるため、ルーフに搭載したセンサーやコンピュータは全て水冷となっているという。

UXデザインを支えるArene

 報道向けには、独自の開発プラットフォームAreneを使って、自動運転車のコックピットのデザインや、ドライバーの挙動の分析などユーザーインタフェースを開発する様子を見せた。特に重視しているのは、自動運転と手動運転を切り替えるときに、クルマの動作状態を分かりやすく伝えるUX(ユーザーエクスペリエンス)の設計だという。


Areneのイメージ(クリックして拡大) 出典:TRI-AD

 Areneは、自動運転のアプリケーションやナビゲーションシステムなどの機能と、車両やシミュレーションプラットフォームをつなぐAPIで、TRI-ADが開発した。フィーチャーフォンからスマートフォンになってソフトウェア開発が容易になったように、車両のソフトウェアの開発やテスト、展開を容易にしながら、安全性とセキュリティを担保することをコンセプトとしている。例えば、メーターのデザインを変更した後に走行シミュレーションを起動させると、シミュレーション内での走行に合わせてメーターがどのように動作するか、Arene上で確認できる。

Areneで開発できるアプリケーションの例(左)。デザインを変更した後のメーターが走行シミュレーションにあわせて動作するのを確認できる(中央)。Areneのテスト用ハードウェア(右)(クリックして拡大)

 コックピットのデザインでは、MicrosoftのMR(拡張現実)デバイス「HoloLens」を活用し、実車を製作する前に、実寸大の車両をMRで確認しながらエンジニアが議論できる環境となっている。また、HoloLensで見ていたデザイン中の車両は、別のエンジニアがすぐ隣のドライビングシミュレータで運転する車両とも共通となっていた。ドライビングシミュレータに座るエンジニアは、視線検知用のデバイスや、手の動きを追跡するセンサーなどを身につけている。運転中の視線移動や、手動運転と自動運転を切り替えるときにドライバーがどう振る舞い、反応するかフィードバックを得ながら、デザインを議論することができる。その上で、実車の試作に移るという。これらのツールも、全てAreneで連携している。

HoloLensとドライビングシミュレータで同じ車両を扱う(左、中央)。ドライバーの挙動をリアルタイムに確認できる(右)(クリックして拡大)

 エンジニアは分野ごとに8人1チームとなり、アジャイル開発を採用している。TRI-ADでは、ほぼ全員が研修を受け、アジャイル開発の手法の1つであるスクラムの「スクラムマスター」の資格を持つ。机のレイアウトも、個人の作業に集中したり、議論のためにチームが集まったりしやすい形になっている。

 エンジニアのスキルアップのための教育も提供している。「道場」という施設で、イノベーションマインドセットのトレーニングや、ソフトウェアプログラミング、日本語や英語といった語学学習の講座を受けられる。現在の人員規模は正社員と契約社員あわせて650人。「新オフィスには1200人分の席がある」(カフナー氏)という。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る