組み込み機器の進化の鍵は「クラウドネイティブ」にあり:MONOist 2023年展望(2/3 ページ)
組み込み機器のエンジニアからは“対岸の火事”に見えていた「クラウドネイティブ」だが、自動車や産業機器の分野で積極的な取り込みが図られるなどその影響は無視できなくなっている。
自動車業界が先行したクラウドネイティブへの取り組み
クラウドネイティブへの取り組みで先行したのは、国内製造業では最も保守的と見られていた自動車業界だ。100年に一度の変革のタイミングとして「CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)」への対応が進められる中で、SDV(ソフトウェア定義自動車)というコンセプトに基づき、旧来の組み込みソフトウェアを前提とした開発体制をがらりと変えつつあるのだ。
このSDVを軸にしたソフトウェア開発体制変更の象徴がいわゆる自動車OSといわれるものだ。トヨタ自動車では「Arene」、フォルクスワーゲンでは「VW.OS」という名称で呼ばれており、実際のところはOSというよりも車載ソフトウェアプラットフォームというべきだろう。もともと自動車におけるコネクテッドの外部接点になっていたカーナビゲーションシステムが高性能組み込み機器だったこともあり、ここを起点に、自動運転やコネクテッド機能の高度化を可能にすべく、クラウドネイティブの取り込みに積極的な姿勢を見せている。
実際に、トヨタ自動車グループでAreneの開発を担うウーブン・プラネットは、コンテナやCI/CDの活用で広く利用されているソフトウェア開発のコラボレーションプラットフォーム「GitHub」を採用していることを明らかにしている。大手ティア1サプライヤーでもクラウドネイティブの取り込みは進んでおり、例えばアルプスアルパインは、2022年10月開催の「CEATEC 2022」において、自社製CI/CD開発環境である「ACiDS(Alpsalpine Continuous integration and Deployment Suite)」を披露し、先進的なソフトウェア開発体制を整えていることをアピールした。
この他にも、カーナビゲーションシステム向けの組み込みOS「BlackBerry QNX」で知られるブラックベリー(BlackBerry)は、クラウドベンダーであるAWSと共同開発したインテリジェント車載データプラットフォーム「BlackBerry IVY」の展開を推進している。BlackBerry IVYは、さまざまなハードウェアやソフトウェアから生成される自動車データの多様性を吸収するとともに、機能安全要求を満たしながらCASEで求められる機能に役立つ形でデータを広く利用できるようにするプラットフォームである。BlackBerry IVYがクッションのような働きをすることで、次世代自動車と深いつながりが求められるであろうスマートシティーとの連携が容易になるというコンセプトだ。クラウドの存在を前提とした、まさにクラウドネイティブな仕組みといえるだろう。
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