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窒素廃棄物問題の解決策となる窒素循環技術、浮世絵で使われた青色顔料を活用CNTF 2023冬 講演レポート

「カーボンニュートラルテクノロジーフェア 2023冬 製造業の技術と持続可能な未来を考える」で産業技術総合研究所(産総研) 首席研究員/ナノブルー取締役の川本徹氏が行った基調講演「持続可能な窒素管理に関する国内外の動きと窒素循環技術の開発」を紹介する。

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 アイティメディアにおける産業向けメディアのMONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンは、ライブ配信セミナー「カーボンニュートラルテクノロジーフェア 2023冬 製造業の技術と持続可能な未来を考える」を11月27〜28日に開催した。ここでは、セミナーで実施された産業技術総合研究所(産総研) 首席研究員/ナノブルー 取締役の川本徹氏による基調講演「持続可能な窒素管理に関する国内外の動きと窒素循環技術の開発」を紹介する。

 2022年の国連環境総会では、窒素廃棄物の顕著な削減について決議を行い、これを受けて環境省も窒素廃棄物の削減に関する検討をスタートした。講演ではこれらに関する動きとともに、排ガス/廃水に含まれるNOx(窒素酸化物)、N2O(亜酸化窒素)、NH3(アンモニア)、有機窒素などの窒素廃棄物を循環利用して、持続可能な窒素管理を実現する技術について解説した。

企業や畜産農家などが排出する窒化化合物の量は2050年に2.6億tに


産業技術総合研究所 首席研究員の川本徹氏 出所:産業技術総合研究所

 川本氏は、まずMONOistの連載「有害廃棄物を資源に変える窒素循環技術」で紹介している内容について言及した。アンモニアなどの窒素廃棄物の排出管理については環境省の動きが活発になってきている。環境省では2023年11月にシンポジウムで持続可能な窒素管理に関する取り組みについて報告した。こういった環境省の動きは、国連環境総会で「窒素廃棄物を2030年までに顕著に減少させること」「国家行動計画に関する情報の共有」の実施が加盟国に推奨されたことがきっかけとなっている。

 一方、アンモニアについては、エネルギーでの活用拡大を目指し、経済産業省が旗振り役を担う形で国内企業がその取り組みを進めている。なお、アンモニアは燃焼してもCO2が発生しないことから、化石燃料の代替として注目されている。

 現在、政府では2030年に300万トン(t)、2050年に3000万tのアンモニアをエネルギーとして活用することを目標に掲げている。現在の国内生産量は100t未満のため、アンモニアの使用量が大幅に増大することから、窒素管理の観点からも注目を集めている。

 さらに、プラネタリーバウンダリー(地球の受け入れ限界と現在の比較)の観点で見ると、窒素化合物の排出は環境問題の1つである。そこで、解決に向けて日本も国家行動計画で策定し窒素化合物に対処することが視野に入っているようだ。

 窒素化合物の排出に関して、企業や畜産農家などが排出する窒素化合物は年々増加している。自然発生する窒素化合物は約2.2億tだが、企業や畜産農家などが排出する量は2050年に2.6億tに達することが予想されている。窒素化合物のうち約8割は肥料用途で生じているため肥料を削減する取り組みは行われているが、自然分解できる窒素化合物は約3億tであるためその取り組みだけでは足らず、排出される窒化化合物を減らす技術が求められている。

PB型錯体を用いたアンモニア吸着材とは

 また、国内における窒素廃棄物は、NH3、N2O、NOxが中心で、水中より大気中に排出されるケースが若干多い。ただ、NOxの排出量が減っているため、窒素廃棄物の排出量は減少傾向にある。NH3の排出量が多いのは農業分野で、NOxは発電所や船舶、自動車で排出されることが多く、N2Oは農業と工業の両分野で同程度排出されている。一方、川本氏らは、窒素排出の削減量として年間1億tが必要と試算している

 こういった状況を踏まえて、産総研の川本氏の研究グループでは、アンモニア吸着材を利用した排ガス/廃水の資源化技術の開発を行っている。具体的には、プルシアンブルー型(PB型)錯体の構造制御を活用した吸着材の設計とシステム化に取り組むとともに、これらを用いたアンモニア吸着装置の開発も実施している。

 PB型錯体は、1704年に発明された青色の顔料で、浮世絵などにも用いられてきた。これが高機能なアンモニアの吸着材であることを2016年に同グループが発見し、窒素循環技術に応用した。アンモニアの吸着材にはゼオライトやイオン交換樹脂などがあるが、それらに比べてPB型錯体は吸着量や脱離量が大きいのが特徴だ。

 既に同グループはPB型錯体を用いたアンモニア吸着装置の実証実験を畜舎で実施している。その結果、畜舎内のアンモニア濃度の70%削減に成功した。加えて、9カ月間の実証実験で、吸着/再生を繰り返したが吸着材の劣化はないことを確かめた。アンモニア吸着装置で回収したアンモニアは、無害化処理を行っていたが、現在は無害化はせず、燃料や肥料への活用を目指して研究を行っている。

 この技術は、内閣府が主導する大型研究プログラム「ムーンショット型研究開発制度」に採択された窒素循環システムに導入される予定だ。

 窒素循環システムは、排ガスあるいは廃水からアンモニアを生産できるシステムで、産総研、東京大学、東洋紡など16の企業/団体がその構築を推進。2020年から川本氏がプロジェクトマネージャーを担当しており、併せて、プラント設計やライフサイクルアセスメント(LCA)、環境影響の評価を行った上で、窒素循環システムのパイロットプラントを構築することも目指している。

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