「飛ぶぞ」から「守るぞ」へ、行き場のないホタテの貝殻から生まれたヘルメット:デザインの力
甲子化学工業と猿払村(北海道)は、ホタテ貝殻からできた環境配慮型ヘルメット「HOTAMET(ホタメット)」のプロジェクト発表会を開催。ホタテ貝殻の主成分が炭酸カルシウムであることに着目し、廃プラスチックをベースとする新素材「カラスチック」を採用したHOTAMETの企画、開発を実現した。
甲子化学工業と猿払村(北海道)は2022年12月14日、ホタテ貝殻からできた環境配慮型ヘルメット「HOTAMET(ホタメット)」のプロジェクト発表会を開催した。
猿払村は、国内最大級の天然ホタテ貝の水揚げ量を誇る“日本最北の村”として知られており、ホタテを加工する際に発生する大量の貝殻を再資源化すべく、甲子化学工業、TBWA HAKUHODO、quantumの協力の下、HOTAMETの開発プロジェクトを始動した。
猿払村がある宗谷地区では、加工後のホタテの貝殻が水産系廃棄物として年間約4万t(トン)発生しており、これまでホタテ貝殻の再利用を目的に国外へ輸出していた。しかし、2021年にホタテ貝殻の国外輸出が途絶えたことにより、地上保管を余儀なくされ、環境への影響や堆積場所の確保などが深刻な地域課題となっていた。
同プロジェクトでは、猿払村の余剰ホタテ貝殻の問題に対し、ホタテ貝殻の主成分が炭酸カルシウムであることに着目し、廃プラスチックをベースとする新素材「カラスチック」を採用したHOTAMETの企画、開発へとつなげた。
カラスチックは、甲子化学工業が大阪大学 大学院工学研究科 教授の宇山浩氏と共同で開発した新素材で、猿払村から余剰貝殻の提供支援を受け、水産系廃棄物であるホタテ貝殻と、廃棄された家電などから回収した廃プラスチックを組み合わせて開発したもの。カラスチックの特長について、甲子化学工業 企画開発部の南原徹也氏は「カラスチックは“オールごみ由来”の新素材だ。新品のプラスチックを100%利用する場合と比較して最大約36%のCO2削減に寄与すると同時に、石灰岩由来のエコプラスチックと比較しても約20%のCO2削減につなげられる。また、炭酸カルシウムが主成分のホタテパウダーを混ぜ込むことで、通常のプラスチックと比較して曲げ弾性率(強度)が約33%向上するなど、環境負荷を低減するとともに、耐久性も備えた素材になっている」と説明する。なお、ホタテ貝殻と廃プラスチックを組み合わせた素材は「日本初」(甲子化学工業調べ)だという。カラスチックの名称およびロゴデザインはTBWA HAKUHODOが開発した。
カラスチックを用いて開発されたHOTAMETは、自然界の仕組みを応用して技術開発に生かす「バイオミミクリー(生物模倣)」の考えに基づき、素材の一部であるホタテ貝殻の構造を模した特殊なリブ構造をデザインに取り入れ、少ない素材使用量で高い強度を生み出すことに成功した。「“外敵から身を守る”というホタテ貝殻の本来の目的から着想を得て、危険と隣り合わせでホタテ漁を行う漁師たちの身の安全を守るヘルメットをホタテの貝殻から作れないかと考え、生まれたのがHOTAMETだ」(南原氏)。HOTAMETのプロダクトデザインはquantumが担当しており、貝殻特有のリブ構造により、一般的なヘルメット形状と比較して約30%の強度アップを実現しているという。
HOTAMETはホタテ漁だけでなく、一般的な防災ヘルメットとしての活用、販売も見込んでおり、製品化は2023年3月末を予定する。また、2022年12月14日からクラウドファンディングサイト「Makuake」を通じて先行予約販売の受付も開始している。通常販売価格は4800円で、CORAL WHITE(白)、SAND CREAM(ベージュ)、DEEP BLACK(黒)、OCEAN BLUE(青)、SUNSET PINK(ピンク)の5色で展開する。
同プロジェクト説明会に登壇した猿払村 村長の伊藤浩一氏は「猿払村の宝といえるホタテ貝殻の有効利用は、長年模索してきた課題だった。ホタテの貝殻も村を支える重要な資源として捉え、何か新しいことができないかと考えていた。そんな中、甲子化学工業から廃棄貝殻を活用したプロダクトを一緒に作りたいとの声をいただき、このプロジェクトをスタートさせた。外敵から身を守るという役目を終えた貝殻が、次にヘルメットとして人々の頭を守る存在になるというのは、持続可能な社会の実現に寄与するものだといえる。今後、村内外にHOTAMETの普及を広げていきたい」と意気込みを語る。
また、HOTAMETは猿払村のふるさと納税返礼品としての導入も予定しており、同プロジェクト発表会では、猿払村ふるさと納税大使の長州力氏がビデオメッセージを寄せた(以下全文)。
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