実用化に向けて開発が進む自律“帆走”技術の今:船も「CASE」(3/3 ページ)
エバーブルーテクノロジーズは今も自律帆走技術の開発に取り組んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的まん延による停滞はあったものの、実証航海とプロトタイプのブラッシュアップを積み重ねて、自律帆走だけでなく機動力を重視した機走(内燃機関もしくはモーターで動作する推進器による航行)をメインとした自律運航小型船舶も手掛けるなど開発領域を広げている。
関係官庁や自治体とも調整しながら販売
このような既存の船舶にモジュールとして自律航行機能を追加できる特徴を利用して、エバーブルーテクノロジーズでは、市販されている小型船舶製品とのコラボレーションモデルとして「AST-181」と「AST-231」を投入している。
AST-181はトーイング用大型ラジコンボート「E-towing」に自律航行機能を追加したモデルだ。サーフィンで沖合のポイントまでけん引するのに利用されているラジコンボートE-towingに自律航行機能を付加することで、海水浴場で救助要請のあった利用者を洋上で救助して陸地まで曳航(えいこう)する動作を自律航行で行うことが期待されている。
AST-231は復元性の高いディンギー「Hansa」に自律帆走機能を追加したモデルだ。高齢者や障がい者でも操船できるように両舷側付近の浮力を増やすことで風を受けても安定して帆走できるHansaを用いることで安定した自律帆走を継続できるだけでなく、浮力と復元力を確保するために確保した船内容量を利用して貨物輸送への活用も検討しているという。
先ほども述べたように、エバーブルーテクノロジーズではeb-NAVIGATOR 2.0をコアシステムとした自律航行船を“販売”している。販売しているということは実際に海上を業務として航行することになる。以前、この連載でも言及したように、自律運航船の海洋法規的な扱いについては複数の解釈があって議論が進んでいる途上にある。特に無人運航船の扱いについては法規的な扱いが定まっていない。
この点について野間氏は、製品化に当たって海洋法規を管轄する国土交通省と海上保安庁の担当部署に対して都度相談し、条件をすり合わせて対応するなど問題がないよう進めている。エバーブルーテクノロジーズでは国土交通省が実施する「令和4年度スマートアイランド推進実証調査業務」に参加して帆船型ドローン「AST-231」による実証航海で酒田市から飛島までの約40kmを航行する。
この実証実験において国土交通省からは、全長3m未満の非動力船帆船は小型船舶に相当しないなどの規定およびガイドラインで定める自律運航船に対し、今回使用するAST-231については、登録、届け出は不要であるとの見解をいただいているとのこと。
一方、海上保安庁からは、サイズにかかわらず帆船に当たり海上衝突予防法の対象となるため、漁労に従事する船舶や運転不自由船などを避航するようにと指導され、これを受けスマートアイランド推進実証調査業務においては伴走船の同行による港内のけん引、有人監視し、定期船航路から規定以上離れて行うこと、危険があったら遠隔操船で避航するといった体制をとることを盛り込み事前に理解を得た上で実施している。
また、実証航海では貨物輸送も予定しているが、実際に運用することになったときには、積載する海上貨物については保険を掛ける必要がある。無人航海における海上貨物保険の扱いについては現在保険会社と協議中としている(現時点では小型船舶用の対物対人保険に加入している)。野間氏の説明によると、実証航海ではクライアントから預かる貨物ではなく実証用のダミーを載せているだけなので海上貨物保険の適用の必要はないが、今後、自律航行製品を購入したユーザーが業務として海上輸送を行う場合は個別に対応をサポートするとしている。
以上のように、現時点においてはeb-NAVIGATOR 2.0をはじめとする自律帆走、もしくは、自律運航小型船製品の購入に当たっては、ユーザーの利用形態や目的、航行海域などによって個別に状況を確認して、必要があれば関係官庁や周辺自治体や団体、業者などとの調整が必要になるが、エバーブルーテクノロジーズではそのサポートにも個別に対応するとしている。
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