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自律運航船の複雑怪奇な法的立場、自動運転車のように議論が進む船も「CASE」(1/3 ページ)

「中の人には常識だが外の人はほとんど知らない」船舶運航に関する法律の視点から、自律運航船の法的制約とあいまいな部分、そして、IMOの総会「MSC103」で示された内容で今後自動運航関連法がどのように変わるのかを解説する。

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法的にはまだ存在していない「自律運航船」

 以前、知人のガジェット系ライターさんから「船って自由気ままに航行しているんじゃないの」と聞かれたことがあった。実をいうと、船舶関係者以外で同じように思っている人は意外と多い。

 「道路もないしあんな広いところをゆっくり走っているんだからお互い危ないと思ったら避ければ大丈夫でしょ」というのがその理由という。確かに洋上では道路で見かけるような車線や標識、信号はない。そして、海は広くて大きい。ぶつかりそうになったらいつでもどこでも避けられるじゃない、というのが陸にいる人たちの印象だ。

 この「海における交通ルールに対する陸の人たちの印象」は、自律運航船、そして、自律運航で可能になる無人船に対しても同様だったりする。自律運航船や無人船に対する技術的ハードルは「自動車と比べてメッチャ簡単なんでしょ」と考えている人も少なくない。

 自動車が日本国内で道路交通法や道路運送車両法といった法律を順守しないといけないのと同様に、船舶も運航において順守しなければならない法律がある。ややこしいのは、運転したり保有したりする分には国内法に従っていれば“ほぼ”十分な自動車とは異なり、海は世界と物理的につながっているので(その船舶が航行できる範囲という制約はあるものの)、船舶を動かすには国内法だけでなく全世界で適用される国際法にも従う必要があることだ。

 国内向けの法律は日本の国会で定めて適用することができるが、国際法となると国際機関で策定しなければならず、関係する国家全てに諮って内容を認めてもらう必要がある。

法律の議論と開発が並行して進む

 このような事情から、船舶関連法案では新しい状況に合わせて内容を更新するのに比較的時間がかかる。自動車関連法案では、自動運転に関してすでにルールを整備して「法的」にも自動運転が可能な製品が登場して実際に公道を走っている。対して、船舶関連法では、国内の船舶関連法でも自律運航船を想定した関連法案や技術要件の検討は進んでいるが、いまだ策定作業中だ。

 国際法でも自律運航船は法的に存在しない。ようやく、船舶関連法案を定める国際機関ともいえる「IMO」(International Maritime Organization)が動き出したところだ。2021年5月に開催したIMOの総会に相当する「MSC103」で、船舶関連法の国際法「SOLUS条約」において自動運航に対応するために変更が必要な項目の確認作業を終了し、具体的な条文の策定作業に“これから”入ることになっている。この決定を待って日本でも海上衝突予防法など国内関連法も変更作業が進むことになる。

 とはいえ、今現在、世界各国で自動運航船の開発がすでに進んでいる。現在、自動運航船の法的立ち位置は確定しておらず、現行法の解釈によって運航されている状況だ。そのため、自律運航船や無人船と船舶関連法の関係に関する認識が開発企業によって異なっている部分も多い。この自律運航船の解釈については海事実務担当者や研究者でも議論が続いている状況だ。加えて、小型船舶の中には現行海洋法の対象になるかならないかで分かりにくいところもある。

 今回は「中の人には常識だが外の人はほとんど知らない」船舶運航に関する法律の視点から、自律運航船の法的制約とあいまいな部分、そして、IMOの総会「MSC103」で示された内容で今後自動運航関連法がどのように変わるのかを解説する。


海は広いな大きいな。だから交通ルールなんかなくても大丈夫だよね、とけっこう多くの人から言われるが、船にも交通ルールがしっかり用意されているので、不用意に他船に近づいては、ダメ、絶対(クリックして拡大)

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