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実用化に向けて開発が進む自律“帆走”技術の今船も「CASE」(2/3 ページ)

エバーブルーテクノロジーズは今も自律帆走技術の開発に取り組んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的まん延による停滞はあったものの、実証航海とプロトタイプのブラッシュアップを積み重ねて、自律帆走だけでなく機動力を重視した機走(内燃機関もしくはモーターで動作する推進器による航行)をメインとした自律運航小型船舶も手掛けるなど開発領域を広げている。

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eb-NAVIGATOR 2.0には衝突回避用のカメラを搭載

 なお、現在のエバーブルーテクノロジーズの販売形態としては、eb-NAVIGATOR 2.0と船体、付随装備のセットを“ひとまとまり”としているため、eb-NAVIGATOR 2.0も付随する推進形態に合わせたバリエーションを組み合わせている。例えば、帆走として販売するモデルの場合は、風力を動力することをベースとした設計にしている。機走(電動ボート)モデルの場合は帆装ではなくスクリュージェットを動力する設計となっている。


eb-NAVIGATOR 2.0[クリックで拡大]

eb-NAVIGATOR 2.0には風向風速系の他に周辺監視用の三眼カメラまで組み込んでいる[クリックで拡大]

 eb-NAVIGATOR 2.0には、センサーとして衝突回避用のカメラを搭載することができる。衝突回避用カメラでは、車の運転支援システムでも使われている3眼カメラを用いて撮影対象物の距離も把握できるようにしている。

 野間氏の説明によると、eb-NAVIGATOR 2.0では撮影対象物に対して人、船、そして、SUP(Stand Up Paddleboard)など認識することができるという。

 ただ、何を認識したとしても「障害物」として扱い、それら全て対して衝突しないためにeb-NAVIGATOR 2.0を搭載した船舶は「推進を止める」ように制御する(eb-NAVIGATOR 2.0では距離の時系列変化は取得していない)。機走状態であれば推進器の回転を止め、帆走状態であれば帆で風を受けないようにするため操作索を繰り出す。eb-NAVIGATOR 2.0による自律航行では速度をなくして止まることで衝突を回避する、もしくは、接触しても運動エネルギーを下げることで衝撃を軽減することを安全航行の条件としている。

 なお、通常の操帆では帆走における推進力をなくす操帆方法として操作索(ヨットでは“シート”と呼ぶ)のテンションをなくして即座に帆に風を受ける力をなくすようにしている(これを「シートをリリースする」と呼ぶ)。現在の自律帆走技術ではこのシートをリリースする制御が難しいと野間氏は説明する。

 そのため、帆が風を受ける力を即座になくして衝突を避けられるように、現在、布の帆ではなく飛行機の翼のような固定帆(ソリッドセイルまたはウイングセイル)を自律帆走で導入するテストも進めている。

 ソリッドセイルはアメリカズカップやSail GPといった高速で帆走するレースセーリングで採用する事例が増えており、メインセイルとその後ろに用意するフラップセイルでセイルカーブを作り出して揚力を発生する仕組みになっている。布製の帆が帆桁の角度をシートの出し入れで操作して変更していたのとは違い、固いセイルの角度を翼のように直接操作して変更するだけなので制御が簡単にできる。

 さらに、エバーブルーテクノロジーズでは既存の小型船舶で自律帆走を可能にする「自動帆船化オプション」を開発してこちらも現在製品とし商品化を予定している。3m以下のいわゆるミニボートや無天蓋の船外機ボートに固定帆のウイングセイルとプラップセイルを備えて風向風速計、そして、eb-NAVIGATOR 2.0を組み込んだマスト、既存の小出力電動船外機と舵、横流れを防ぐリーボードを両舷から水中に下げることで、自律帆走と自律機走をできるようにする。

 公園などで利用されているレンタルボードを簡単に帆走できるようにするだけでなく、自律帆走できることで誰もが手軽に帆走を体験できるような活用を想定している。また、漁港などで遺棄されて問題になっている放置船の再利用を目指すとしている。


自律帆走化ユニットオプション[クリックで拡大]

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