昭和電工は第2の創業で「レゾナック」へ、半導体材料事業が成長をけん引:材料技術(2/2 ページ)
昭和電工が、昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)の統合によって2023年1月1日に発足する新会社「レゾナック」の半導体材料事業について説明。2021年度の統合前2社の業績ベースで、半導体材料事業の売上高は2665億円と世界トップクラスであり、中でも後工程材料については1853億円で圧倒的な世界No.1のポジションにあるという。
参入障壁が高い半導体材料事業、M&Aで先駆けたレゾナックに優位性
先述した通り、経済安全保障で半導体が重視されるようになり、次世代5Gなどの無線通信の高速化やカーボンニュートラル実現に不可欠な再生可能エネルギーの高効率化で半導体の果たす役割は大きなものになっている。
真岡氏は、これらの半導体を作るのに不可欠な半導体材料は「参入障壁が高いので、世界シェアトップクラスの製品を多数展開するレゾナックにとって有利なビジネスだ」と強調する。この参入障壁の高さは、微細化やパッケージの複雑化を突き詰めていく上で顧客とすり合わせ型のやりとりが必要でコモディティ化しにくいこと、先端顧客との接点から新たな技術開発で常に先行できること、そもそも半導体メーカーが生産プロセスの変更を避ける傾向があること、半導体材料が電気工学、熱力学、構造力学、物性化学を融合して最適化する材料設計が必要で難易度が高いことなどが背景にある。
また、半導体材料業界内におけるレゾナックのポジショニングが独特なことでも優位性があるという。半導体材料メーカーのほとんどが、少数の製品で強みを発揮するニッチマーケットプレイヤーであり、レゾナックのように高シェアの製品を複数手掛けるプレイヤーはあまり多くない。「しかし、各国での半導体製造の囲い込みが進むこれからの時代は、それぞれで生産拠点を展開することが求められるなど、半導体材料メーカーも企業規模が大きくなければ勝ち抜けなくなる。だからこそM&Aが活発化しているのであり、レゾナックはその先駆けになったといえる」と述べる。
さらに、半導体材料の売上高2665億円のうち約7割の1853億円を後工程材料が占めることも今後の成長要因になるとする。これまで半導体の技術革新は、シリコンウエハーに形成する回路の微細化を担う前工程がけん引してきた。しかし、1桁nmプロセスに突入して以降、今や2nmプロセスの実現が間近に迫る中でさらなる微細化は困難になっており、今後は後工程の実装技術により高機能化を実現していく必要が出てきている。この後工程における高機能化では、使用する材料が複数にわたり、いわゆる2.X次元パッケージと呼ばれる複雑な立体構造では10以上の材料を最適に組み合わせる必要がある。インテルやAMD、NVIDIAの最先端プロセッサが採用するパッケージ技術でも、インターポーザやチップレットを多用しており、今後もこの方向性は加速するとみられている。
この他にも、昭和電工と昭和電工マテリアルズが化学メーカーとしての位置付けが異なるため、両社によるシナジー効果が発揮しやすいこともレゾナックの特徴になっている。昭和電工は、化学メーカーとして川上/川中側の“作る化学”を中核としており、昭和電工マテリアルズはこれら川上/川中の材料を活用する川下側の“混ぜる化学”によって事業を展開してきた。互いの特性が異なることもあって「両社の統合シナジー効果は想定よりも早く生まれてきている」(真岡氏)という。これらの統合シナジーにより、銅張積層板、ソルダーレジストフィルム、CMPスラリーなどで次世代材料の開発が始まっている。
自社開発だけでなく他社との協業も積極的に進めていく方針だ。JR新川崎駅近くにある「パッケージングソリューションセンタ」(川崎市幸区)では、複雑化する半導体パッケージに対応する先端技術を創出するため、後工程プロセスを一気通貫で検証する環境を用意している。2021年9月には、昭和電工マテリアルズが主導する次世代半導体パッケージの共創コンソーシアム「JOINT2」が発足しており、5Gや次世代5Gに対応した技術開発を進めていく構えだ。
半導体・電子材料関連の設備投資についても2021〜2025年の5年間で約2500億円を計画しており、同事業の売上高も2021年の3600億円から2025年に5500億円以上、2030年に8500億円以上に伸ばし、2021年からの年平均成長率で10%以上を見込む。真岡氏は「半導体の革新が進むことによって半導体材料市場は着実に成長を遂げていく。足元で半導体市場の調整局面はあるものの、中長期で成長していくことを確信している」と述べている。
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