耳石に刻まれた情報から、魚の1日ごとの経験水温を解明:医療技術ニュース
京都大学は、魚の耳石における超微小領域の炭素酸素安定同位体を分析することで、魚類の1日ごとの経験水温を明らかにした。魚類生体の理解や水産資源保全につながることが期待される。
京都大学は2022年10月17日、魚の耳石における超微小領域の炭素酸素安定同位体を分析することで、魚類の1日ごとの経験水温を明らかにしたと発表した。同大学大学院人間・環境学研究科 修士課程の武藤大知氏らが、茨城工業高等専門学校時代に水産研究・教育機構と共同研究した成果だ。
魚類の内耳には、炭酸カルシウムの結晶である耳石が存在する。耳石の酸素安定同位体比(δ18O)は、その個体の経験水温と海水のδ18Oにより決定する。また、炭素安定同位体比(δ13C)は、摂取した餌や代謝などの生体情報を記録している。
今回の研究では、仔稚魚が耳石に1日1本の日周輪を形成することから、0歳魚のマアジ耳石の日周輪形状を読み取り、明瞭化した。明瞭化した日周輪に沿って耳石を切削し、日周輪に沿った成長段階ごとのδ18Oと生育海域のδ18Oを対応させることで、1日ごとの経験水温履歴を復元した。
日周輪に沿って切削した耳石について、高精度に微量炭酸塩を分析できる微量炭酸塩安定同位体比質量分析システム(MICAL3c)を用いて、δ13Cとδ18Oを定量した。δ13Cとδ18Oの変動は、それぞれ−5.77〜−9.42‰、0.00〜−1.24‰だった。この値は水温に換算すると5℃程度の変化となる。
水温は海洋生物の分布を決定する重要な要素の1つだが、回遊魚の経験環境を詳細に観測するのは難しく、魚類の生息環境や生態の理解は進んでいない。特に、体長が小さく、電子タグを取り付けられない仔稚魚期の個体は、生息環境の履歴を解明するのが困難だった。
同研究成果は、稚魚期のマアジの生態解明だけでなく、他の多くの魚種に応用することで、魚類生体の理解や水産資源保全につながることが期待される。
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