日立が2022年度通期業績見通しを上方修正も「経済環境は後退局面に」:製造マネジメントニュース
日立製作所の2022年度上期の連結業績は、売上高が前年同期比12%増の5兆4167億円、利益指標のAdjusted EBITAが同5.5%増の3930億円で、円安による為替影響と市況回復傾向、グローバルロジックの買収効果により増収となり、日立エナジーや鉄道、ビルシステム、日立ハイテクの計測分析システムのけん引により増益を確保した。
日立製作所(以下、日立)は2022年10月28日、オンラインで会見を開き、2022年度(2023年3月期)第2四半期(7〜9月)の決算を発表した。同年度上期(4〜9月)の連結業績は、売上高が前年同期比12%増の5兆4167億円、利益指標のAdjusted EBITA(調整後営業利益−買収に伴う無形資産などの償却費+持ち分法損益)が同5.5%増の3930億円で、円安による為替影響と市況回復傾向、グローバルロジック(GlobalLogic)の買収効果により増収となり、日立エナジーや鉄道、ビルシステム、日立ハイテクの計測分析システムのけん引により増益を確保した。四半期利益については同46.5%減の1725億円となったが、これは前年同期に計上した海外家電事業の売却益がなくなったことに加えて、リスク分担型企業年金制度への移行影響、急激な円安によって日立エナジーにかかるのれんの減損損失計上が重なったためだ。
足元のマクロ経済環境は、世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)需要の拡大やカーボンニュートラルなど環境関連投資の増加などはあるものの、ウクライナ情勢などの地政学リスク、世界的な資源価格高騰とインフレ、欧州の利上げと経済減速、米国の急激な利上げによる経済悪化リスク、中国のゼロコロナ政策と不動産市場の悪化など「プラス要因よりもマイナス要因の方がはるかに大きい状況」(日立 執行役副社長 CFOの河村芳彦氏)にある。半導体不足の影響も車載システム事業を展開する日立Astemoを中心に引き続いている。
ただし、通期業績見通しについては、これまで苦境にあった日立Astemoの業績回復や、サービス事業の拡大を見込むビルシステム、受注の堅調なインダストリアルプロダクツなどの貢献を見込んで上方修正した。売上高は前回予想比5500億円増の10兆4000億円、Adjusted EBITAは同320億円増の8770億円、当期利益は変わらず6000億円となっている。前提為替レートは1米ドル130円/1ユーロ140円だが、1米ドル150円/1ユーロ150円で為替が推移した場合は売上高で2050億円増、Adjusted EBITAで120億円増の影響があるという。
また、注力しているデジタルソリューション群「Lumada」事業は、2022年度上期が売上高で前年同期比54%増の8790億円でAdjusted EBITA率で約13%となった。特に、通信機能を備えた機器や設備のセグメントであるコネクテッドプロダクトが、日本橋エリア最大規模の複合プロジェクト向けに、日本国内での日立の昇降機受注で過去最大となる139台を一括受注するなど好調。Lumada事業の2022年度通期見込みは、売上高で前年度比36%増の1兆9000億円とし、前回予想から300億円引き上げた。
河村氏は足元の経済環境について「欧米の利上げはまだピークを迎えていないことを考えると、2023年度は後退局面が続く。リセッション(景気後退)に入るのは確実であり、相当慎重なかじ取りが求められるだろう」と語る。また、中国のロックダウンによる影響で白物家電などの生活・エコシステム事業で大きな機会損失があったことをなどを考慮し、サプライチェーンの見直しも進めるとした。「これまでの調達は安価であればいいという考え方だったが、今後は持続性も求められるだろう。地政学リスクを考慮すると、一部の拠点を国内や同盟国に戻すこともあり得る」(同氏)。
また、急激な円安による決算への影響については「この10年間で為替に中立な体制を作ってきたこともあり、円安でプラスになる会計効果とマイナスになる輸入効果はほぼ相殺されるようになっている」(河村氏)とした。実際に2022年度上期業績は、当初計画に対して売上高で約1000億円、Adjusted EBITAで約200億円上振れしたものの、為替影響による成長は売上高の3分の2とAdjusted EBITAの半分にとどまり、残りはオーガニックな成長だったという。
さらに河村氏は、原材料価格の高騰に対する価格転嫁についても言及した。「調達価格は前年比で10〜12%上昇している。このうち半分程度の5〜6%分しか顧客への価格転嫁ができておらず、特に国内顧客で進んでいない。2023年度に向けて協力を要請していかなければならないと考えている」(同氏)という。
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