日立の製品が破壊的イノベーションを生み出す未来へ――小島新社長インタビュー:製造マネジメント インタビュー(1/2 ページ)
日立製作所の新たな取締役 代表執行役 執行役社長兼COOに小島啓二氏が就任した。小島氏に、Lumada事業の成長を含めた2022年度から始まる次期中期計画に向けての方向性や、上場子会社である日立建機の扱い、研究所出身として経営者が技術を知っていることの重要性などについて聞いた。
日立製作所(以下、日立)の新たな取締役 代表執行役 執行役社長兼COOに小島啓二氏が就任した。同社は、リーマンショック後の2008年度決算で約7800億円もの最終赤字を計上して以降、構造改革を断行し、社会イノベーション事業を中核とする新たな成長路線を歩んできた。小島氏は、この社会イノベーション事業のさらなる成長に向けたデジタルソリューション群「Lumada」を立ち上げたことで知られる。
本稿では、2021年6月23日の株主総会経て正式に社長兼COOに就任した小島氏への複数メディアによるグループインタビューをお送りする。同氏は、Lumada事業の成長を含めた2022年度から始まる次期中期計画に向けての方向性や、上場子会社である日立建機の扱い、研究所出身として経営者が技術を知っていることの重要性などの質問に答えた。
営業利益1兆円には「レジリエントな会社になる」という思いを込めた
―― 投資家向け説明会では2025年に営業利益1兆円という目標を打ち出したが、その狙いは。
小島氏 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、2020年度の営業利益の額は前年度比で減少した。これからは、COVID-19のような逆境でも揺るがずに営業利益1兆円を出せるように、日立を強靭な会社、レジリエントな会社にしたいという思いがある。
実は、2021年2月に東北地方で地震があったとき、日立Astemoの自動車部品工場も被害を受け、稼働再開に向けてトヨタ自動車のレジリエントチームによる支援を得たが、さすがの実力だった。そのトヨタ自動車も、さまざまな危機のたびに色んなことをやって今の姿があるのだと思い尊敬している。日立も、もっともっとレジリエントな会社になりたい。営業利益1兆円という言葉は、その金額以上に「レジリエントな会社になる」ということへの思いが強い。
―― 次期中計に向けて現在の日立の事業をどのように捉えていますか。
小島氏 日立が成長を目指していく上で掲げてきた目標が営業利益率二桁の達成だが、その一方で、レジリエントな会社になるために利益の絶対額も高めていく必要がある。そのためには、日立の持つアセット(資産)の回転を高めなければならない。現在、セクターごとに色んなアセットが混ざっており整理がついていない。さらなる成長を目指すには、重めの社会インフラ系の事業、中量産の事業といったアセットのタイプで事業をシンプルに分類するべきだろう。
Lumada事業の成長はフェーズ2の段階へ
―― Lumada事業をどのように成長させていきたいと考えていますか。
小島氏 Lumadaの成長は2つのフェーズで考えてきた。フェーズ1は、日立のIT部隊が、顧客のデータを使って顧客の業務を革新するというもの。日立の強力なSI(システムインテグレーション)を活用した顧客との協創により、国内におけるフェーズ1の展開はかなり進められた。これに続くフェーズ2では、国内におけるフェーズ1の展開を海外に広げるとともに、製品事業におけるデータを活用したイノベーションを起こすことを目指す。アップル(Apple)の「iPhone」のように、日立の製品からディスラプティブ(破壊的)なイノベーションを生み出せるようにしたい。10〜20年後、そういう価値があちこちから生まれるようになっているとうれしい。
これまで日立には業務革新のIT部隊はいたが、製品にイノベーションを起こせるようなIT部隊はいなかった。そのためのIT部隊として買収したのがグローバルロジック(GlobalLogic)だ。グローバルロジックには、製品を持っている会社に対して、デザイン思考を基にその製品をサービス化する革新の提案を行うビジネスモデルがある。それらに必要なICチップやハードウェア、クラウドまで含めて開発することもできる。さらに、グローバルロジックはこのビジネスモデルを海外で展開しており、Lumadaのフェーズ2に求められる2つの要素を満たしている。
―― Lumada事業のフェーズ1をけん引してきたITセクターの成長は継続できますか。
小島氏 ITセクターの成長継続のためには海外比率を高める必要がある。利益の出る地域に出て行くことが重要になるが、そこで大きな役割を果たすのがグローバルロジックの存在だ。ITセクターで営業利益率20%(2020年度は約13%)を達成するには、今後は事業を北米中心で展開しつつ、そのためのITリソースをインドでしっかり確保するようにしていかなければならないだろう。ITセクターでは、北米×インドの組み合わせが極めて重要になると考えている。
トップダウンで指示するだけでは事業再編は進まない
―― 新社長就任の発表会見や投資家向け説明会で挙げていた、経営における意思決定をスピードアップするために重視している「コミュニケーション」とは具体的にはどういうことですか。
小島氏 私が担当しているライフセクターでは、これまで事業再編がなかなか進まなかった自動車、家電、医療などを管轄していた。それまでの歴史を調べて分かったのは、トップダウンで指示するだけではダメで、その事業再編と関わる多くの人たちと一体にならなければ進まず、最終的に現状のままになってしまうということだった。現場で事業再編について交渉する人たち、事業再編で切り出されるような人たちと直接思いを共有しなければ前に進まない。こういったことから、意思決定のスピードアップには何よりコミュニケーションが重要になるということがよく分かった。例えば、日立ハイテクノロジーズを100%子会社化する時も、成長イメージの共有のために現場の人たちとコミュニケーションを重ねた。「トップダウン」と言うのはたやすいが、日本の企業はそれだけでは簡単に進まない。
―― 上場子会社の中で、日立建機の処遇がまだ定まっていません。
小島氏 現在までに日立グループに残っている子会社は、業界内で一定のシェアを取っていてLumadaと連携可能なデータを生み出すデータソースになる企業だ。日立建機をはじめ、ジョンソンコントロールズ(Johnson Controls)との合弁による空調事業、ホンダとの合弁による日立Astemo、日立物流などがそうだ。ただし、日立建機については、上場子会社という形態を続けるのは難しいので、完全子会社にするか、一定レベルまで出資比率を減らすしかない。日立建機が考える成長の方向性を後押しする形で、2021年度中には結論を出したい。
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