三菱電機が品質不正の調査を終了、総数197件に上り柵山前会長も課長時代に関与:品質不正問題(2/2 ページ)
三菱電機が、一連の不適切検査に関する調査報告書の第4報と、ガバナンスレビュー委員会による執行役/取締役の経営上の責任とガバナンス体制・内部統制システム全般の検証の結果を説明。再発防止に向けた「品質風土」「組織風土」「ガバナンス」から成る3つの改革をどのように進めていくかについても報告した。
「現場の環境整備こそが解決策に他ならない」
今回の調査委員会の最終報告を受けて、三菱電機における品質不正問題を今後もただしていく役割を担う品質改革推進本部は、197件の品質不適切行為について、112件を故意による不適切行為、85件を過失による不適切行為に分類している。
その上で、不適切行為の発生の直接的原因として、必要十分な4M(Man、Machine、Material、Method)投資の不実施、継続する業務の高負荷、デザインレビュワー不足、デジタルツール導入や仕組みの整備が不十分、法規や規格、契約に対する深い知識/理解を得る機会や仕組みの不足、データに基づく技術説明を尽くすというプロセスが根付いていないことなどを挙げた。さらに、その背景には、言えなかった/言わせなかったという組織風土の問題や、予防重視の内部統制システムが十分整備されていないことも指摘した。
これらの原因分析に基づき、これまで進めてきた「品質風土」「組織風土」「ガバナンス」の3つの改革の中で、さらに具体的な施策を展開することを打ち出した。「3つの改革の方向性に大きな変更はないが、未然防止に向けたエンジニアリングプロセス変革、双方向コミュニケーションの風土の醸成、予防重視のガバナンス、内部統制システムの構築に重点を置いて再発防止策を進めていく」(漆間氏)という。
中でも、未然防止に向けたエンジニアリングプロセス変革のための追加方策では「モノづくりマネジメントの正常化」「設計のフロントローディング推進(設計検証、変更点検証の充実)」「データに基づく品質管理と手続きの実行」を打ち出した。三菱電機 常務執行役 CPO(ものづくり担当)、CQO(品質改革推進本部長)の中井良和氏は「2022年4月に入社してから各製作所を回ったが、やらなくてもいいことにリソースを使っていることが問題の要因になっているのではないかと感じた。従業員は不正をやりたくてやっているのではなく、やらざるを得ない環境下にあっただけだろう。現場の環境整備こそが解決策に他ならない」と強調する。
“やらなくてもいいことにリソースを使っていること”の事例として、設計デザインレビューを挙げた。三菱電機として標準の範囲での設計であれば、世界初、三菱電機初のような新規開発製品の設計と比べてデザインレビューの工数を削減できるはずだが、三菱電機では新規開発製品と同レベルとなるほぼフルプロセスで行っていた。日本科学技術連盟が推進する「QuickDR」などのデザインレビュー手法を用いることで、設計審議項目が81から40に、資料作成枚数も131ページから37ページに削減できたという。
22製作所の品質不適切行為の調査終了を受けて、今後は関連会社を対象とした調査に移行する。これまで外部専門家から構成される調査委員会が行っていた調査は品質改革推進本部で担うことになる。出資比率50%以上で設計、検査、保守に関わりのある国内の41社を対象に、62項目から成るチェックリストに基づく自己診断を2022年9月末までに実施したところだ。今後は、チェックリストからリスク判定を行い、問題がある場合には調査委員会と同様に全従業員を対象とするアンケートを実施して品質不適切行為を洗い出す。アンケートについては無記名として、通報者の不利にならないよう配慮する。2022年3月末をめどに41社の調査を完了させたい考えだ。
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