省イリジウムな水電解用電極の大型化技術開発、東芝が2023年以降商用化目指す:脱炭素(2/2 ページ)
東芝は2022年10月7日、再生可能エネルギーによる電力を基に水電解を行って水素を製造する「固体高分子型水電解」に関して、触媒となるイリジウムの使用量を10分の1に抑えた電極の大型製造技術を確立したと発表した。2023年以降での量産化を見込む。
5m2の電極を製造可能に
一方で、スパッタリングによる成膜は真空中で実施する必要があるといった制約条件のため大面積化しづらく、100cm2(10×10cm)程度の電極を製造するのが限界という問題があった。そこで東芝は研究開発を重ね、イリジウムなどスパッタリング時の金属ターゲットの堆積配分比率や酸素投入量などの成膜条件を工夫することで、5m2のより大型な電極を製造できるようにした。
吉永氏は「省イリジウム技術を用いたMEAの商用化を目指すに当たり、これまで課題となっていたのが電極の大面積化だった」と語る。5m2の面積があれば、1枚から多くのMEAを作成できるのでコストメリットが出やすくなる。なお、同面積当たりの最大出力の目安は約200kWだという。
将来の供給量に懸念あるイリジウム
PEM型水電解はP2G(Power to Gas)技術として注目される水素製造技術の1つである。P2G技術はそのままでは輸送/貯蔵しづらい、再生可能エネルギーで発電した電力を、水電解により水素に変換して問題を解決することを目指すものである。水電解の主要な手法としてはPEM型水電解の他に、「アルカリ型水電解」「固体酸化物型水電解(SOEC)」などが存在する。
この内、アルカリ型水電解はすでに大型化に成功しており、市場投入されている。しかし、吉永氏は「アルカリ溶液が漏れ出すなどの事故リスクや、再生可能エネルギー由来の電力など変動電力への対応が難しい」と指摘する。このため東芝は瞬時追従が可能で、変動電源対応に優れるPEMを次世代の水電解技術として注目し、実用化に向けた研究開発を進めている。なお同社はSOECについても開発を進めているが、「まだ研究段階にある」(吉永氏)という。
一方で、PEM型水電解にも解決すべき課題がある。レアメタルの1種であるイリジウムを大量に使用する点である。吉永氏は「(再生可能エネルギー由来の)クリーン水素の需要量を鑑みると、今後10年間で年間13.6GW規模のPEM型水電解装置が必要になる。この製造には年間約1トンのイリジウム採掘が求められるが、イリジウムはソーダ電解やプラグ、ルツボなどの既存用途で需要が逼迫(ひっぱく)している」と説明する。このためイリジウムの消費を抑える技術開発を進めてきた。
現在、東芝は大面積化した電極を基にMEAを試作し、外部の水電解装置メーカーによる外部評価試験を行っている。今後はMEAの量産化に向けて、歩留まりの向上や品質改善活動を進めていく予定だとする。東芝エネルギーシステムズと連携して2023年度以降の製品化を目指す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 水素の安定利用に向けたサプライチェーン構築へ、岐阜・愛知・三重が連携
中部圏水素利用協議会は2022年2月21日、中部圏における水素の大規模実装と安定的な利用のためのサプライチェーン構築に向けて、3県1市や経済3団体と包括連携協定を締結したと発表した。 - 日独共に脱炭素の「切り札」は水素か、ハノーバーメッセ2022レポート【前編】
世界最大規模の産業見本市「HANNOVER MESSE(ハノーバーメッセ) 2022」が、5月30日(現地時間)にドイツのハノーバー国際見本市会場で開幕しました。現地参加した筆者が前後編で会場レポートをお届けします。 - 燃料電池工場の電力を燃料電池でまかなう、パナソニックが「世界初」の実証施設
パナソニックは2022年4月15日、同社の草津事業所で、純水素型燃料電池などによって、工場消費電力を再生可能エネルギーで100%まかなうための実証施設「H2 KIBOU FIELD」の稼働を開始した。自家発電燃料として水素を本格的に活用し、工場の稼働電力をまかなう実証としては「世界初」(パナソニック)の試みだという。 - 製造業の脱炭素って本当に可能ですか? 欧州よりも積極性が求められる日本
国内製造業は本当に脱炭素を実現できるのか――。この問いに対して、本連載では国内製造業がとるべき行動を、海外先進事例をもとに検討していきます。第1回は脱炭素を巡る欧州と日本の「共通点」と「相違点」を解説します。 - 日立大みか事業所は地域全体でCO2削減に挑む、先進工場が目指す脱炭素の在り方
日立製作所の大みか事業所は2022年6月、「大みかグリーンネットワーク」という構想を発表した。注目したいのが、大みか事業所を中心にサプライチェーン企業や地域企業などを巻き込み、「地域社会全体での成長可能な脱炭素」を目指すというコンセプトだ。スコープ3の対応に頭を悩ませる製造業も多いが、同事業所ではどのように達成を目指すのか。