モノからコトへ、NTNが目指す“軸受を見守る”サービス事業の拡大:製造業がサービス業となる日(2/2 ページ)
NTNは2022年9月28日、「しゃべる軸受」や風力発電装置向け状態監視システム、軸受診断アプリなど、さまざまな事業で展開しているサービスビジネスの動向について説明した。
後付けで簡単に回転機器の異常を把握
Wind Doctorと異なり、より幅広い産業機器全般に、後付けで簡単に異常を検知する機能を提供する狙いで開発されたのが「NTNポータブル異常検知装置」である。設備に取り付けるだけで軸受や設備の状態を診断でき、簡単操作で高精度な測定や分析が行える。特徴は何よりも「コンパクトで簡単に使える」という点だ。センサー部と電源および無線通信部を1つのユニットとしており、持ち運びが簡単で、検査を行いたい場合に簡単に異常把握が可能だ。
防塵/防水機能としては、IP65相当に対応しており、生産現場の過酷な環境でも使用可能だ。分析にはiOS対応スマートデバイスを使い、標準モードで約7秒という高速分析が可能だ。 「Over All」および「高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform)」分析による軸受の異常判定などが可能。また、測定履歴のグラフ表示により、設備コンディションの継続監視も可能だ。「常時設置するものではなく、定期検査時に持ち運んで計測するような使い方を想定している」(担当者)。2020年に販売を開始し、測定器とレポートの販売を合わせて100件以上の実績につながっているとしている。
軸受状態を常時監視するアプリケーションを展開
軸受診断アプリは、軸受の状況をリアルタイムで診断するソフトウェアである。産業用IoTプラットフォーム「Edgecross」に対応し、さまざまな振動センサーデータを処理し、診断開始時点を基準に状態レベルを「正常」「初期」「注意」「警告」の4段階で出力する。WindowsベースのPCにダウンロードしたEdgecross基本ソフトウェアで駆動させるアプリケーションであり、接続時のデータを正常データと位置付けて認識するために、事前の設定などを大幅に簡略化できる点が特徴だ。また、軸受の診断結果を3〜10秒ごとに更新するなど、迅速な対応を取りやすいことも利点だといえる。
Edgecrossのマーケットプレースで2021年7月から体験版の提供を開始し始めたが、「センサー類やPCの用意にハードルがある」という声が多かったことから、2022年8月からは、これらの基本的なハードウェア一式を提供するPoC(概念実証)キットを用意し、提供を開始したという。2023年3月末まで体験版の提供を行い、2024年3月期中に有償版の展開を予定する。
自ら情報発信を行う「しゃべる軸受」
サービス/ソリューション領域の製品として2022年6月に発表し、大きな注目を集めたのが「しゃべる軸受」だ。これは、内径70mm、外径150mmの通常軸受製品と同じサイズに、センサー、発電ユニット、無線デバイスを内蔵。標準軸受との互換性を確保しつつ、情報発信機能を付加することで高度な状態監視を実現したものだ。
内蔵したセンサーで状態を検出し、機械装置の外側での検出よりも高感度に軸受の振動や温度を検出できる。電源供給およびデータ送信にケーブルが不要で、機械装置への装着が容易である点なども利点だという。
6月の発表以降「思いもよらぬ反響ある。100件近くの問い合わせがあり、主に設備状態監視として使ってみたいという声が多い。課題としてはサイズ感がある。センサーサイズがあるため、現状はこれ以上の小型化は難しいが、さらなる小型化を求める声があった。また、化学プラントで使うために防爆対応を求める声もあった」(担当者)としている。
NTNでは、これらの製品群を中心とし、それ以外の領域にもサービスビジネスを拡大していく方針だ。「軸受のメンテナンス需要はケースによって変わってくるが、労働人口減少によるメンテナンス人員の不足は全般的にいえることだ。また、これらの人材を育てることも難しくなってきている。こうしたところを補うニーズは高まると見ている」(担当者)としている。
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