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製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない製造業がサービス業となる日(1/3 ページ)

製造業が生産する製品を販売するのでなく、サービスとして提供する――。そんな新たなビジネスモデルが注目を集めている。サービタイゼーション(Servitization、サービス化)と呼ばれるこの動きが広がる中、製造業は本当にサービス業に近くなっていくのか。インタビューを通じて“製造業のサービス化”の利点や問題点を洗い出す。本稿では、サービタイゼーションを研究するペンシルバニア大学 教授モリス・コーヘン氏のインタビューをお伝えする。

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 製造業において「サービス」というとアフターサービスを考える人が多いだろう。そんな製造業のサービス機能をより広く、より深く展開し、サービスをビジネスの柱とする「サービタイゼーション(Servitization、サービス化)」と呼ばれる動きが広がりを見せている。サービタイゼーションが本格化すると、製造業でも製品を販売するのではなく、製品を通じたサービスを提供するビジネスモデルへと移行していくともいわれている。

 果たして製造業がサービス業として生きることは可能なのだろうか。また、そのメリットやデメリットにはどういうものがあるのか。本連載では、有識者や実践者のインタビューを通じてサービタイゼーションの利点や問題点を洗い出す。

 今回は、サービタイゼーションを研究し、PTCのSLM分野におけるアドバイザーであるペンシルバニア大学 ウォートン校 製造・流通部門 パナソニック冠教授であるモリス・コーヘン(Morris A. Cohen)氏のインタビューをお伝えする。

「必要な価値だけを切りだして提供する」

―― サービタイゼーションとは具体的にどういうことでしょうか。

コーへン氏 「製品をモノとして提供するのでなく、サービスとして提供する」ということだ。この動きは、既に多くのグローバル企業が始めている。

 前提条件として企業が顧客に対し「何を提供しているのか」を考える必要がある。企業は全て顧客に対して何らかの「価値」を提供している。しかしそれは一定のものではない。同じ製品を使っていても、顧客によって、もしくはタイミングによって、得られる価値は変わる。モノそのものに価値があって、それを持つことそのものが目的であるならば、製品をモノとして販売することには価値がある。顧客は持っているだけで価値を感じることができるからだ。

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ペンシルバニア大学 ウォートン校 製造・物流部門 パナソニック冠教授であるモリス・コーへン(Morris A. Cohen)氏

 しかし、多くの製品においては、何らかの目的や体験を実現するための「手段」として、「ある機能を購入している」と言い換えることができる。この場合、その製品が「機能している時間」は価値を提供しているということになる。一方で「機能していない時間」や「機能させられなかった時間」は「コストになっている」といえる。

 つまり、製品をモノとして提供するのではなく「必要な価値だけを切りだして提供する」ということがサービタイゼーションということになる。

 製品は物理的に形のあるモノで、サービスは形のないモノが多い。現実を見るとこれらが個々に提供されているわけではなく、組み合わせて提供されている場合が多い。製造業にとってみれば、製品がなければサービスも行えないからだ。その意味では完全なサービタイゼーションというのはあり得ないのかもしれない。しかし、グローバル製造業の競争において、サービス側の重要性が高まってきているのは事実だ。企業の競争力を実現するのに、サービスおよびサービスの品質が、「差別化」への大きな要素になってきているからだ。

製品販売は“時代遅れ”になったのか

―― 製品を売るモノ売りのビジネスモデルが古くなり、サービス型の新しいビジネスモデルに置き換わっていくということでしょうか。

コーへン氏 モノ売りの形が、時代遅れになり、必要なくなったというわけではない。分野や事業モデルによっては「モノ売りモデル」がそのまま生き残ることもあるだろう。しかし、競争の激しい分野においては、その中でサービスが差別化の要素として比率を高めている、ということがいえる。

 特に先進国においては、モノが潤沢になってしまったことから、製品そのもので差別化を生み出し、競争力を作ることが難しくなっているということがいえるだろう。製品単体ではコモディティ化が進み、価値がどんどん下がる。しかし、サービスを組み合わせることで、製品に新たな価値を戦略的に付与することができる。企業としてより広い領域で差別化を生み出していく必要があるということだ。実際に、サービスを組み合わせることで製品としての価値を高める動きは、広がりを見せている。

 例えば農業機械を展開している米国のJohn Deere(ジョンディア)は、GPSを使ってトラクターなどの機械を遠隔操作するサービス「iGuide system」を2007年から開始。従来の製品販売だけでなく、遠隔操作サービスを組み合わせることで、製品そのものの価値を高めている。一方で英国のRolls Royce(ロールスロイス)は、航空機のエンジンにリアルタイムで監視するセンサーを組み込み、稼働管理や運航管理、航空機の位置情報管理などを取得。これらの情報を基にしたメンテナンスサービスなどを展開している。

 また、ロールスロイスなど航空機エンジンの業界ではさらに進んだビジネスモデルなども進んでいる。「パワーバイザアワー(Power By The Hour)」という方式だ。これはエンジンを販売するのではなく、そのエンジンの時間ごとの出力に対して課金するというもの。つまり、パフォーマンスベースの契約を行うのだ。これはメーカーが製品を販売するのではなく、より厳密にパフォーマンスそのものを販売するという形だ。

 米国では国防総省が納品条件の一部にこのパワーバイザアワー方式を採用しており、「価値に対する対価」を厳密に求めていく動きはさらに広がっていくだろう。

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