発酵槽で作るパーム油代替油脂、実用化に向け世界トップレベルの生産量を実現:材料技術
NEDOと不二製油グループ本社、新潟薬科大学の3者は、油脂酵母を用いたパーム油の代替油脂の生産において、培養液1L(リットル)当たり98gという世界トップレベルの生産量を6日間で実現したと発表した。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と不二製油グループ本社、新潟薬科大学の3者は2022年10月4日、オンラインで会見を開き、油脂酵母を用いたパーム油の代替油脂の生産において、培養液1L(リットル)当たり98gという世界トップレベルの生産量を6日間で実現したと発表した。培養液1L当たり100gの代替油脂の生産を4日間で実現する2026年度の最終目標の達成に大きく近づく成果であり、不二製油グループ本社では早ければ2030年にもパーム油の一部について油脂酵母による代替生産を始めたい考えだ。
NEDOは、植物や微生物などの生物を用いて物質を生産する技術である「バイオものづくり」を推進しており、2020年度から「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発(バイオものづくりプロジェクト)」をスタートさせている。今回の成果は、同プロジェクトのテーマの一つである「脂溶性化合物生産のための油脂酵母産業用スマートセル構築」で得られたものだ。
油脂酵母による代替油脂生産は、第一次世界大戦のころから研究されてきた技術である。石油の発掘によって必要性が一度は薄れたものの、近年になってバイオディーゼルの生産で注目を集め、さらにカーボンニュートラル/グリーンケミストリーという観点から改めて研究が加速しつつある。
今回の研究成果では、新潟薬科大学 応用生命科学部 応用生命科学科 教授の高久洋暁氏の研究グループが発見した油脂酵母が油脂を生成する制御因子が技術のベースになっている。その上で、ゲノム解析やIT、遺伝子組み換えなどを適用して、オレイン酸含有量の多い高品質な油脂を高効率に発酵生産できる油脂酵母のスマートセル株を開発。5lの発酵槽を用いて油脂酵母からパーム油の代替油脂の培養を行い、6日間で培養液1l当たり98gの油脂の生産に成功した(油脂生産性98g-Lipid/L/6days)。発酵槽に投入する糖分から得られる油脂の収率である対糖油脂収率は20%となっており、これは2022年度の中間目標に掲げていた「脂溶性化合物の生産性70g-Lipid/L/6days(油脂変換率:20%)」を達成したことになる。
油脂酵母によるパーム油代替油脂の生産の実用化に向けた2026年度の最終目標は「100g-Lipid/L/4days、対糖油脂収率25%」となっている。今回の研究成果から、さらに油脂合成が効率よく進むように代謝経路が改善された産業用油脂高蓄積酵母を開発することで、この最終目標の達成を目指す。
なお、最終目標の達成により、2030年以降における年間数万トンのパーム油代替油脂の生産が視野に入ってくるという。そして2050年ごろに、世界最高水準の油脂生産性を持つ産業用スマートセルによるカーボンリサイクル型の国内油脂供給システムの実現を目指すとしている。
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