世界が挑む「バイオものづくり」、日本は高機能化学品にチャンス:材料技術(1/2 ページ)
NEDOが短信レポート「環境・エネルギー分野へ貢献するバイオ産業 ―バイオものづくりの課題と可能性―」について説明。日本政府の「バイオ戦略」や「グリーン成長戦略」の達成に求められる「バイオものづくり」を、日本国内でどう進めるべきかについての分析を報告した。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は2021年2月3日、オンラインで会見を開き、短信レポート「環境・エネルギー分野へ貢献するバイオ産業 ―バイオものづくりの課題と可能性―」について説明した。
同レポートは、日本政府が発表している、2030年に世界最先端のバイオエコノミー※)社会を実現することを目的とした「バイオ戦略」や、2050年のカーボンニュートラルを目指す「グリーン成長戦略」の達成に求められるであろう、バイオ技術やバイオ資源を活用したモノづくりである「バイオものづくり」について、その可能性を調査、分析した内容となっている。
※)バイオエコノミー:バイオテクノロジーや再生可能な生物資源などを利活用し、持続的で、再生可能性のある循環型の経済社会を拡大させる概念。
NEDO 技術戦略研究センター バイオエコノミーユニット ユニット長の水無渉氏は「第4次産業革命において『デジタル』と『バイオ』が重要な役割を果たす。世界各国がバイオエコノミーの実現を目標に掲げた国家戦略を推進しており、日本も2019年からバイオ戦略を展開している。いわゆる循環型社会形成に向けてバイオへの期待は大きく高まっている」と語る。実際に、環境影響評価手法であるLCA(Life Cycle Assesment)関連の論文投稿でも、2010年以降バイオ関連の件数が急激に増加しているという。
「安価で安定的な原料入手」と「生産技術」が課題
注目を集めているとはいえ、バイオものづくりにはまだ課題も多い。特に、比較対象となる既存のモノづくり手法の化学合成に比べて製造コストは高いといわれている。同レポートでは、このコスト高の要因分析を行っており、安価で安定的な原料入手が難しいことや、効率の良い生産技術が実現できていないことなどを指摘している。水無氏は「原料となるバイオマスは、かさばるだけでなく偏在しており輸送に適さない。できるだけ地産地消した方がよい。また生産技術では、低濃度の水溶液を使うことが多く、水溶媒から分離回収の負荷が高い。多量の排水処理が必要なことも課題だ」と説明する。
例えば、食品などに用いられるコハク酸の製造の最終プロセスである晶析工程の排水量で比較すると、バイオ合成の廃水量は化学合成の2.7倍に達する。他の工程でもバイオ合成は化学合成よりも多量の水が必要になるという。
これらバイオものづくりの課題のうち、安価で安定的な原料入手については、ごみなどの廃棄物を利用することになるバイオマスを国内で調達できる量には限りがあるため、解決は容易ではない。既にバイオマスとして利用されている家畜排せつ物などだけでなく、現時点で未活用の林業資源やブルーカーボン(海洋で生息する生物によって吸収・固定される炭素)、廃プラスチック、生活系ごみなどを活用しても、年間数百万トンの生産規模になる汎用化学品の生産には適していない。
生産技術については、マテリアルズインフォマテイクスなどを活用して合成する製品を選ぶデータ駆動型のターゲット選定や、エステル化や配糖体化でガス状化合物にして生産することによる反応効率向上や分離回収の容易化、現在のバイオ合成プロセスで広く利用されている通期攪拌型リアクターとは異なる生産プロセスエンジニアリング開発などで、生産の効率向上や負荷低減が期待できる余地がある。
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