【DXで勝ち抜く具体例・その2】非効率を解消するビジネス:DXによる製造業の進化(5)(3/3 ページ)
国内企業に強く求められているDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、製造業がどのような進化を遂げられるのかを解説する本連載。第5回は、第2回で取り上げたDXで勝ち抜く4つの方向性のうち「非効率を解消するビジネス」の具体例として、CADDi、Rapyuta Robotics、CropIn、b8taの取り組みを紹介する。
b8ta――体験型店舗の提供により“メーカーと消費者をダイレクトにつなぐ”
b8taは、Retail as a Serviceをコンセプトに体験型店舗を提供するスタートアップです。米国で2015年に設立後、順調に店舗数を拡大するとともに、2019年には日本への進出も果たしました。コロナ禍を経て、米国事業は店舗を必要としないライブコマースを中心としたビジネスモデルにシフトしましたが、独立した法人となった日本のb8ta Japanは、出店の拡大のみならず、アジア地域への進出も計画しています。
b8taの店舗には、家電、情報通信機器、AV機器、ファッション用品、化粧品など、さまざまな分野の商品が並んでいます。その多くは、販売が開始されたばかりの新商品であり、中には未発売のテスト品もあります。来店客は、これらを手に取って使ってみることができます。
b8taは、商品を売ることを目的としていません。来店客の行動を高精度のカメラでトレースしており、画像解析技術を活用して年齢層や性別を識別するだけではなく、各ブースの滞在時間、商品の前で立ち止まっていた時間や手に触れていた時間、商品説明のタブレット端末を視聴していた時間や操作内容、スタッフによるデモを見ていた時間や質問内容などをデータとして蓄積しています。そのデータを出品企業に還元することで収益を得ているのです。
出品企業からすれば、通常の店舗とは異なり、陳列スペースの面積と期間に応じた出品費を支払う必要があります。その代わりに、マーケティングデータを得られるわけです。メーカーにとって貴重な消費者との直接の接点を仕組みとして提供することで、独自のマネタイズスキームを構築することに成功した例といえるでしょう。
非効率を解消するビジネスに求められる要件
非効率を解消するビジネスの価値は、作業をなくしたり、人手を減らしたり、ダイレクトにつないだりすることで、モノやサービスの取引コストを引き下げることにあります。その結果として、より安く調達できる、費用や工数を低減できると判断されなければ利用されません。つまり、非効率を解消するビジネスを展開するに当たって最も重要なことは、明確なコストダウン効果のあるビジネスモデルを構築することです。
コストダウン効果を価値とするビジネスであるが故に、利用を開始するに当たってのイニシャルコスト(初期の費用と手間)は最小化することが望まれます。初期費用については、購入代や設置代を得るのではなく、使用期間や回数、成果などに応じた支払いを受けることで、ゼロにすることも可能です。手順の理解や習熟を容易な仕組みにしたり、今までと変わらない仕様にしたりすることで、現場の手間を軽減することも一案です。
非効率を解消するビジネスは、作業や人手の不要化、取引のダイレクト化といった業務プロセスの変革を通じてコストダウンを実現します。つまり、それを利用した企業は、今までとは異なる手順や仕様を受け入れなければなりません。それ故に、事業、製品、地域、顧客などの区分に応じて段階的に移行できるようにすることが重要です。従来の手順や仕様を残したまま、同時並行的に利用できる仕組みにすることも有効でしょう。
さて、今回は、「非効率を解消するビジネス」の実例として、CADDi、Rapyuta Robotics、CropIn、b8taの4社を取り上げるとともに、ビジネスモデルとして満たすべき要件を解説しました。次回の第6回は、「需給を拡大するビジネス」の具体例を紹介します。
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筆者プロフィール
小野塚 征志(おのづか まさし) 株式会社ローランド・ベルガー パートナー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、富士総合研究所、みずほ情報総研を経て現職。長期ビジョンや経営計画の作成、新規事業の開発、成長戦略やアライアンス戦略の策定、構造改革の推進などを通じてビジネスモデルの革新を支援。近著に、『DXビジネスモデル 80事例に学ぶ利益を生み出す攻めの戦略』(インプレス)、『サプライウェブ−次世代の商流・物流プラットフォーム』(日経BP)、『ロジスティクス4.0−物流の創造的革新』(日本経済新聞出版社)など。
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