オキシトシンの見える化に成功、脳内の挙動に影響しない極小タグを開発:医療技術ニュース
慶應義塾大学と横浜国立大学は、オキシトシンにタグとしてアルキンを付加したアルキンオキシトシンを開発し、オキシトシンの見える化に成功した。脳内におけるオキシトシンの作用部位や時空的動態を初めて観察した。
慶應義塾大学は2022年8月24日、脳内ホルモンの一種オキシトシンにタグとしてアルキンを付加したアルキンオキシトシンを開発し、オキシトシンの見える化に成功したと発表した。また、マウスの生きた脳組織を用いて、オキシトシンの脳内における作用部位や時空的動態を初めて観察した。横浜国立大学との共同研究による成果だ。
ペプチド性ホルモンであるオキシトシンは、分子量1000程度の小さい分子だ。見える化のために、一般的に用いられる分子量700程度の蛍光タグを付加すると、オキシトシン本来の挙動が影響を受ける。
そこで今回、分子量25程度と極小のアセチレン系炭化水素であるアルキンに着目し、オキシトシンにアルキンタグを結合させるアルキンタギング法を開発した。アルキンは簡便な化学反応により短時間でオキシトシンに付加することが可能だ。アルキンオキシトシンを細胞や脳組織に投与した後、アルキンに蛍光色素を付加したアジドを反応させることでアルキンオキシトシンが顕微鏡で観察できるようになる。
アルキンオキシトシンをマウスの脳組織に投与すると、特徴的な局在を観察できた。また、脳内のオキシトシン本来の標的物質に結合し、オキシトシンと非常に近い挙動を示すことから、オキシトシンの見える化ツールとして利用できることが確認された。
マウスの脳組織におけるオキシトシンの作用部位を解析したところ、記憶や学習に重要な役割を担う海馬で強く結合し、主に成熟した神経細胞と反応することが明らかとなった。さらに、細胞外に投与されたオキシトシンの細胞内への取り込みは少なく、主に細胞表面でオキシトシン受容体と結合し、すぐに消えることも分かった。
分娩促進などに関与するホルモンのオキシトシンは、人間関係の構築など社会的行動において重要な役割を持つ神経伝達物質としての働きが明らかになり、自閉スペクトラム症などの関連疾患を理解する上でも注目されている。しかし、オキシトシンは蛍光タグの利用ができないため、脳内の作用部位や動態が不明だった。
今回開発した手法は、オキシトシン以外のペプチド性神経伝達物質への応用も可能だ。今後、さまざまな生理活性を持つ、ペプチドの働きや関連疾患の解明が進むことが期待される。
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