「TDSLだけを考えるな」、東芝デジタルソリューションズ新社長のミッション:製造マネジメントニュース
東芝デジタルソリューションズは2022年8月4日、同年3月に同社 取締役社長に就任した岡田俊輔氏の共同取材をオンラインで開催した。今後の同社の事業展開について、ビジョンや具体的な取り組みの計画などを語った。
東芝デジタルソリューションズは2022年8月4日、同年3月に同社 取締役社長に就任した岡田俊輔氏の共同取材をオンラインで開催した。今後の同社の事業展開について、ビジョンや具体的な取り組みの計画などを語った。
DE/DX/QXの3段階で事業を推進
岡田俊輔氏は1985年に東芝に入社し、2015年4月に東芝 インダストリアルICTソリューション社 製造・産業・社会インフラソリューション事業部長、同年6月に東芝ソリューション 執行役員に就任した。その後、2017年から2020年にかけて東芝デジタルソリューションでインダストリアルソリューション事業部長、ICTソリューション事業部長、取締役などを務め、その後、東芝データ 取締役や東芝情報システム 取締役を歴任している。IoT(モノのインターネット)の民主化を目指す「ifLinkオープンコミュニティ」や、「量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」の理事も務める。そして、2022年に東芝 代表執行役社長 CEOに任命された島田太郎氏の後継として、東芝デジタルソリューションズ 取締役社長に就任した。岡田氏は東芝 執行役員 上席常務 CDO(最高デジタル責任者)も兼務する。
岡田氏は今後の東芝デジタルソリューションの展望として、社会のデジタル化やデータ活用を促進するため、「DE(デジタルエボリューション)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」、そして「QX(クオンタムトランスフォーメーション)」の3段階で取り組みを進めていくと語った。
DEは東芝が培ってきたCPS(サイバーフィジカルシステム)技術によって、各産業領域においてバリューチェーンを最適化し、事業のサービス化やリカーリング化につなげるというものだ。次段階のDXでは、DEの取り組みを通じて得たデータをプラットフォームに集約し、掛け合わせて新たな価値を生み出す。そしてQXでは量子技術を用いてデータプラットフォーム同士をさらに密に結合させていくとした。量子産業の本格的な市場創出はまだ先とみられているが、岡田氏は「積極的に投資することで、この分野のリーディングカンパニーを目指したい」と語った。
今後DE、DX、QXの各事業を発展させていく上で、東芝ならではのバリューを打ち出すには、CPS技術が重要な役割を担うと考えているという。「前社長である島田氏が着任以来、CPSのコンセプトを深める議論を社内で進めている。eラーニングなどを通じてDE、DXに関する社内理解が進むよう努力もしており、これらの結果、自社のビジネスモデルを正しく理解した上で、事業を進める動きが見えてきた」(岡田氏)。
こうしたDE、DX領域において具体的に展開している製造業向けソリューション群として、岡田氏は「Meisterシリーズ」を紹介した。同シリーズでは、戦略調達ソリューション「Meister SRM」や検査工程の省人化を促進する「AI自動検査パッケージ」、現場従業員の動きを収集する「現場作業見える化パッケージ」、旧型設備の操作を自動化する「あやつり制御パッケージ」、5M1Eを再現するモノづくりIoTクラウドサービス「Meister Manufact X」などのサービスを展開しており、これらを中心に統合データ基盤作成を目指す。これによって、より強固なサプライチェーン構築を支援する。
この他にも岡田氏は拠点ごとやエリアごとのCO2排出量を自動管理する「Meister OperateX」や、ブロックチェーンによるビジネス創出を支援する「DNCWARE Blockchain+」に加え、ifLinkオープンコミュニティの活動なども紹介した。
量子リピーター技術や衛星通信技術の開発進める
QXの取り組みについては、量子暗号通信やイジングマシンなど量子関連技術の開発が進み、本格的な実用化に向けた取り組みが社会全体で進む中、「先を見越したサービス作りに取り組むべき段階にある」(岡田氏)と語った。東芝グループは現在、量子暗号技術の商業化に向けた実証実験をグローバルで進めており、量子インスパイア―ド最適化ソリューション「SQBM+」なども展開するなど、量子技術の実用化を推進している。
今後、量子関連技術で開拓したい分野について報道陣から質問されると、岡田氏は「量子暗号通信は既に実用化され始めているが、商用ベースでは120kmの地点間を結ぶのが限界だ。これを解決するため、より遠方まで情報を届けられるようにする『量子リピーター』技術や衛星通信といった技術の研究開発を進めている。また、ここ1年ほどで、量子鍵配送(QKD)の技術が量子インターネット実現に向けた一丁目一番地の技術としてグローバルに注目され始めている。先を見据えた技術開発を行う」と答えた。
また、ゲート型量子コンピュータの開発シーンでは有力な方式がまだ定まっていないことにも触れ、「どのゲート方式になっても必要な部品を作るなど取り組みを進める。日本の強みを生かせる領域だと考えている」(岡田氏)とも語った。
報道陣からは、前社長である島田氏の後任として岡田氏が「どういうカラーを出していくのか」という質問もなされた。これに対して岡田氏は、自身がこれまで島田氏と共に東芝デジタルソリューションズの事業展開を行ってきたとした上で、「島田からは『TDSL(東芝デジタルソリューションズ)だけを考えるな』といわれている。東芝はグループ全体でデータ戦略を打ち出している。東芝デジタルソリューションズはこれをけん引しつつ、グループ全体のデジタル化をリードしていく。これを実現するのが私のミッションだ」と答えた。
具体的な施策としては、ソフトウェア人材が頻繁に行う“作法”のようなやり方や、ソフトウェア部品を東芝グループ各社で共通化すると共に、東芝デジタルソリューションズが先行して取り組んできたデータビジネスのノウハウを各社と共有することも検討しているという。
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