JDIは「技術立社」へ、ディスプレイ業界のArm目指し世界初と世界一を連打:組み込み開発ニュース(2/2 ページ)
ジャパンディスプレイ(JDI)が成長戦略「METAGROWTH 2026」に向け開発を進めている新技術について説明。次世代OLED技術「eLEAP」やバックプレーン技術「HMO」、透明ディスプレイ「Raeclear」など「世界初、世界一」となる独自技術の開発を推し進めるとともに、オープンなライセンス展開も行うことで「ディスプレイ業界のArmを目指す」という。
フロントプレーンの「eLEAP」、バックプレーンの「HMO」
eLEAPは、OLEDの発光層を形成するフロントプレーン工程において、これまで中小型OLEDの製造に用いられてきたメタルマスクに換えてフォトリソグラフィを適用する技術だ。メタルマスクの洗浄に用いられてきた大量の薬液が不要になるともに、従来比で2倍の高輝度、3倍の長寿命という特性を実現し、さまざまな形状のパネルに対応するフリーシェイプも可能とする。さらに、スマートフォン向けの中小型サイズにとどまらず、ノートPCやモニター、車載向けに加え、テレビ向けの大型サイズの生産にも対応するという。
既に原理検証を完了してプロトラインでの試作を本格化させており、2022年秋にはサンプル出荷を始める計画だ。2024年には、JDIのハブ工場と位置付ける茂原工場(千葉県茂原市)のG6ラインでの量産を始められるように整備を進めていくという。
フロントプレーン工程の技術であるeLEAPに対して、ディスプレイを制御するTFTアレイを作り込むバックプレーン工程の新技術がHMOである。LCDやOLEDのバックプレーンの基板に用いられる酸化物半導体は、これまで結晶性の低いアモルファス材料が中心だった。HMOは、出光興産が開発した多結晶材料「Poly-OS」を採用することで大幅な高性能化と低消費電力化を両立させた。実際に、従来のアモルファス材料と比べてTFTアレイのオン電流の移動度で2〜4倍を実現しており、これはアクティブマトリクス式OLEDのバックプレーンに用いられている低温ポリシリコン(LTPS)と同等以上になるという。一方で、オフリーク電流が低いという酸化物半導体の特性も維持できている。
LTPSを用いたTFTアレイのサイズはG6ラインが限界だったが、HMOはG8以上の大型ラインへの展開も可能である。まずは、eLEAPと同様に茂原工場で試作を行い、2022年末〜2023年初にサンプル出荷を行い、G6ラインを用いた量産ラインへの技術展開も進める方針である。
「ディスプレイ業界に新しいエコシステムを構築したい」
これらeLEAPとHMOは、茂原工場にあるG6ラインよりも大きなG8/G10ラインにも適用可能だ。JDIとしては、自社で新たにG8/G10ラインを構築する計画がないこともあり、他ディスプレイパネルメーカーへのライセンス提供を積極的に進めていきたい考えだ。
キャロン氏は「JDIとしては、半導体業界におけるArmのように、ディスプレイ業界に新しいエコシステムを構築したいと考えている。そのためには、JDIだけでなく競合他社を含めてさまざまな企業を巻き込んで業界そのものを変えて行く必要があるだろう」と述べている。
なお、eLEAPやHMOのライセンス提供による売上高目標としては、METAGROWTH 2026の最終年度に当たる2026年度に3桁億円を目指すとした。
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