検索
インタビュー

岐路に立つJDI、“B2C”の新規事業は起死回生の一手になるかイノベーションのレシピ(1/3 ページ)

厳しい経営状況に直面するジャパンディスプレイ。同社は起死回生の一手として2018年4月に新規事業プロジェクト「JDI Future Trip Project」を立ち上げ、2019年度内にB2C製品を販売開始する予定だ。同事業で部長を務める井戸靖彦氏を始め、JDIの起死回生を担うメンバーたちに新規事業と製品にかける思いを聞いた。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 厳しい経営状況に直面するジャパンディスプレイ(JDI)。主力の中小型液晶ディスプレイ事業は、スマートフォン市場の減速や競合との競争激化で苦しい戦いを強いられており、営業損失は2期連続、当期純損失は5期連続で計上している。経営再建に向けて難しい舵取りを迫られる中、同社は総額800億円の金融支援調達にめどをつけたとし、主要銀行と融資枠の更新に向けた協議など事態の好転に向けて取り組みを進める。

 このような状況の中、JDIは2018年4月に新規事業「JDI Future Trip Project(以下、Future Trip)」を立ち上げた。このFuture Trip事業では同社がこれまで経験してこなかったB2Cビジネスに参入するため、新しいジャンルの製品を開発、販売することに挑戦している。同社は消費者向けエレクトロニクス展示会「CES」のアジア版である「CES Asia 2019」(2019年6月11〜13日、上海)に初めて出展し、Future Tripで開発した新製品3点を展示。来場者から大きな反響を得たとともに、2つの製品でイノベーションアワードを受賞した。

 Future Tripでは新規事業を開始するため社内公募を実施し、その中で選抜されたメンバーが「マーケティング&イノベーション戦略統括部」に異動し、製品コンセプトの発想から販売網開拓までを専属で実行する。同部内で部長を務める井戸靖彦氏を始め、JDIの起死回生を担うメンバーたちに新規事業と製品にかける思いを聞いた。


マーケティング&イノベーション戦略統括部に所属する技術者。一番右が井戸靖彦氏(クリックで拡大)

業績の柱になるビジネスへ、JDIで根付く新規事業のノウハウ

MONOist Future Tripプロジェクトで目指す方向性を教えてください。

井戸靖彦氏 Future Tripはディスプレイを利用して、今まで世になかった新たな製品を開発する事業だ。事業を担当するマーケティング&イノベーション戦略統括部は総勢16人で、複数のチームに分かれて製品を開発している。2019年度内に3製品の発売を目指す。

 ご存知の通り、われわれの会社は非常に厳しい状況に置かれている。JDIは中小型の液晶ディスプレイデバイスを主要事業としているが、このデバイス事業頼りの収益体質からの脱却を目指している。デバイス事業は売り切り型のビジネスであり、品質を高め歩留まりを向上させることで稼ぐ薄利多売のビジネスモデルである。

 一方で、Future Tripで開発する製品は付加価値を高めることで、薄利多売をしない。高い利益率を創出し、今から2〜3年後には業績の柱の1つとなるようなビジネスにしたい。

 また、われわれが最終製品を作ることでデバイス事業にもメリットが生まれる。デバイスの出荷数量を増やすことに加え、エンドユーザーの声を直接聞く場が生まれることも重要だ。これまでも、顧客企業の商品企画担当者などから製品に対する希望やフィードバックを得ることはできていたが、最終顧客となるエンドユーザーのニーズを拾うことは難しかった。Future Tripプロジェクトを推進することによって、デバイス事業側にエンドユーザーの声を届けていきたい。

MONOist JDIで新規事業の旗振り役を担っていた伊藤嘉明氏が2019年5月にCMO(最高マーケティング責任者)から退任されました。Future Tripは伊藤氏が主導したプロジェクトのように見えましたが、今後のプロジェクト進行に影響は発生するのでしょうか。

井戸氏 伊藤氏は2017年8月の入社以来、会社の事業ポートフォリオを変革したいとの思いを持ち、陣頭指揮を執ってFuture Tripを手掛けてきた。彼の世間的な認知度や、企業の垣根を超えた人を巻き込む力、B2C事業を軌道に乗せる経験などはわれわれ全員を合わせてもかなわない。

 しかし、新規事業を遂行するノウハウ、チャレンジするDNAは伊藤氏から脈々と受け継いできたつもりだ。各製品の担当者はスタートアップ企業のようなスピード感と責任感を持って業務にあたっている。

 CMOを退任した伊藤氏とは「また別の形で協力できればいいね」という話はしたが、現在のFuture Tripに伊藤氏は完全に関わっていない。Future Tripで開発した製品を2019年度内で確実に量産し、販売する。これがFuture Tripを育ててくれた彼へのメッセージになる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

       | 次のページへ
ページトップに戻る