分子ロボットの「群れ」を開発、最大で直径30μmの物質輸送に成功:ロボット開発ニュース
北海道大学および関西大学は、分子ロボットの「群れ」を開発した。分子ロボット単体では直径3μm程度の物質しか輸送できなかったのに対し、群れでは最大で直径30μmの物質を輸送することに成功している。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2022年4月21日、「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」において、北海道大学と関西大学が分子ロボットの「群れ」を開発したと発表した。最大で直径30μmの物質の輸送に成功している。
今回の研究では、まずモータータンパク質やDNA分子コンピュータ、フォトクロミック色素を化学的な手法で組み上げることで、単体で直径25nm、全長5μm程度の分子ロボットを開発した。フォトクロミック色素には、感光性分子のアゾベンゼンを用いており、群れの形成や解離を可視光や紫外光で遠隔操作することを可能とした。
また、分子ロボットが輸送するプラスチック製のマイクロビーズには、表面にフォトクロミック色素を用いたDNAを修飾することで、光照射による結合解離機構を持たせた。これにより、分子ロボットが可視光照射下でマイクロビーズを捕捉し、紫外光照射下で放出することが可能となった。
分子ロボット単体と約100万体の分子ロボットの群れを用いてマイクロビーズの輸送実験を実施したところ、単体では直径3μm程度のマイクロビーズしか輸送できなかった。一方、群れでは、最大で直径30μmのビーズを輸送することに成功した。
直径3μm程度のマイクロビーズを用いて単体と群れの作業効率(時間あたりの輸送距離および輸送量)を比較したところ、群れによる輸送では5倍程度効率が向上することも明らかになった。
また、局所的に紫外光を照射することで、任意の場所にビーズを集められることを確認した。輸送の空間精度は30μm以下となっている。
今後両大学は、2020年より開発に共同で取り組んでいる分子ロボット総合研究所とともに、AI(人工知能)やVR(仮想現実)を組み込んだ研究開発の共創環境を構築し、それを活用した分子ロボットの研究を進める。
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