新しい駆動の在り方、ソフトロボット学が切り開く世界:バーチャルTECHNO-FRONTIER
オンライン展示会「バーチャルTECHNO-FRONTIER2021冬」(2021年2月2〜12日)の講演に早稲田大学 理工学術院 教授の澤田秀之氏が登壇。「ソフトロボット学が切り拓く新しい世界〜機能的マテリアルとソフトロボットへの展開〜」をテーマとし、「やわらかい」ロボット実現に向けた機能性材料とその制御手法、ソフトロボットへの展開・展望について紹介した。
オンライン展示会「バーチャルTECHNO-FRONTIER2021冬」(2021年2月2〜12日)の講演に早稲田大学 理工学術院 教授の澤田秀之氏が登壇。「ソフトロボット学が切り拓く新しい世界〜機能的マテリアルとソフトロボットへの展開〜」をテーマとし、「やわらかい」ロボット実現に向けた機能性材料とその制御手法、ソフトロボットへの展開・展望について紹介した。本稿ではその内容を紹介する。
化学反応で動くアクチュエーター
ソフトロボットに代表されるように、さまざまな環境に適応できる汎化性能を持つ「やわらかい」ロボットの研究が現在、盛んに進められている。澤田氏は、ロボットシステムを外部環境と近い開放系として捉え、新たな機能の探索を、材料、センサー・アクチュエーター制御、計算論の視点から行っている。
澤田氏は科学研究費助成事業 新学術領域研究(2018〜2022年度)ソフトロボット学の創成の中で、A03-2班として参加している。研究の背景には近年の電子デバイスの超小型化と超集積化、機械要素技術の精密化、それらを動かすプログラミング技術、複雑な配線、排熱、エネルギーの供給(省エネ観点でのエネルギーの効率化)などの課題がある。
その中で、澤田氏らのグループは「カチガチではなくやわらかくロボットを作って、それを柔軟に制御、もしくはそれを使ってセンシングすることに使えないかと考えている。さらに、電気エネルギーだけでなく、熱や化学反応などから取り出せる他のエネルギーを使って動きに転換することや、エネルギーの相互転換まで考えて、メカトロニクスを設計する研究を進めている」と澤田氏は述べる。
「やわらかいロボット」として1つのトピックとして取り組んでいるのが「化学反応のネットワークで駆動するケミカルロボット」である。ポイントとなるのがBelousov-Zhabotinsky(BZ)反応だ。BZ反応はいくつかの物質の濃度が周期的に変化する非線形的振動反応の代表的な例として知られている。この反応により非平衡系の連鎖が起こり、それが複雑な反応ネットワークを作る。有機酸、酸化剤、酸、金属イオン・錯体で反応が起こることから、これらの材料を使い研究を進めた。攪拌条件で濃度振動することが知られており、酸化還元反応などにより伸縮と膨潤が繰り返される。
この反応を使うと形が変化する。「これをロボット、センサー、アクチュエーターに使うことを目指している」と澤田氏は語る。変化量はマイクロメートルオーダーと小さいが、変化を大きく取ることができればアクチュエーターとして使えるため、形状変化を大きく取り出すために、電場、温度、光、濃度変化など物理刺激に反応する刺激応答性高分子ゲルや温度応答性高分子ゲルに着目しているという。
ゲル材料についてもより大きな変位を求めて材料選びを進めてきた。「適切な材料を選定することで直径1mmのゲルに対して100〜150マイクロメートル程度の変位を実現できることが物理刺激で起こることが報告されている。十分な形状変化が取り出せるとアクチュエーションへの使用が可能となる。さらに大きな変位を実現するために着目したのが異方性を有するゲルのロコモーションで、これにより、内部の化学反応で自律的に動くことが分かった」と澤田氏は述べている。
化学反応で自走する仕組み
続いて、化学反応による自走油滴の方向制御と水中物体運搬への応用について解説した。これも化学反応から力を取り出すというもので、無水オレイン酸の油滴を塩基性水溶液の中に滴下すると、自発的に動き出すということを利用している。無水オレイン酸が水溶液を取り込むことで、オレイン酸に変化する。そうすると油滴の中にマランゴニ対流(表面張力が場所によって違っている場合に発生する流れ)が発生する。この対流が起こると、表面に一定方向の流れが生じ、海面活性剤の無水物の加水分解反応により対流が保持され、油滴は自走し続ける。
対流が発生する要因は分かっていないが、実験を続けることで、澤田氏らは油滴が動き出すと動く方向に細長くなるということを発見した。そして、外骨格のフレームを与えることで、フレームの方向に動かすことができると仮説を立てた。ブーメラン型のフレームを作成し、強制的にマランゴニ対流を発生させたところ、フレームの内側に滴下すると一定方向に動くことが判明した。温度や湿度のファクターで動き方が変化することも突き止め、それらの条件を変えることで動き方も変えることができる。
油滴に直接触れなくても外部環境により、動きを制御できることが分かった。実際に「水上マニピュレータを作り、油滴を落とすことで後ろから押して、物体をA地点からB地点まで、電気を必要とせず化学反応だけで運搬することでできることなどを研究しており、現在はアクティブに形状を変えることで、進む方向やスピードまで制御することができる」(澤田氏)という。
次に「誘電エラストマーを用いたロボットの自動組み立てと自立駆動」について紹介した。誘電エラストマーをカーボンナノチューブの電極で挟んだDEA(Dielectric Elastomer Actuator=誘電エラストマーを挟んだコンデンサー)は、電圧をかけると電場が生じて、電極間に生じるクーロン力によりエラストマーが圧縮され水平方向に伸張する現象が起こる。この力を取り出すために、伸張させたエラストマーにフレームを張り付け、収縮する力を利用し自動的に立体構造を形成させる。これをグリッパーに応用している。
この他「形状記憶合金の相転移を利用したマルチトランスデューサ」の研究では、人間の「触覚感覚」を測り、創り出す研究を進めている。これは新たな可能性を開く先端デバイスとしての形状記憶合金ワイヤを微小振動させることで、振動アクチュエーターなどに用いる。「紙材料とインクの物理化学反応を用いた印刷デバイスの開発」では、印刷法という統一視点からロボットの作成法を俯瞰したペーパーメカトロニクスの提案を行っている。
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