化学反応をコンピュータ制御できる、人工細胞型の微小反応容器:医療機器ニュース
東京工業大学は、熱平衡状態から大きく離れた系の化学反応をコンピュータ制御できる「人工細胞型微小リアクター」の開発に成功した。将来は細胞を模倣した高機能な分子コンピュータや分子ロボットの開発につながるとしている。
東京工業大学は2016年1月21日、熱平衡状態(物質やエネルギーの出入りがなく、変化が起こっていない状態)から大きく離れた系の化学反応をコンピュータ制御できる「人工細胞型微小リアクター」の開発に成功したと発表した。同大学大学院総合理工学研究科の瀧ノ上正浩准教授らによるもので、成果は同月20日に英科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開された。
細胞は、分子の自己組織化や自発的な分子反応によって機能を発揮する超精密で超高機能なシステムだ。熱平衡状態から大きく離れて、化学物質の供給や排出を伴う化学反応(非平衡化学反応)に基づいている。しかし、細胞のように微小なスケールでこのような化学反応を制御することは難しく、制御するための新しい理論や技術の開発が望まれていた。
一方で、近年、マイクロ流路技術とよばれる非常に微小な液体を操作する技術でリアクターを構築し、このような化学反応を制御する試みが世界的に注目されるようになってきた。しかし、外部から任意のタイミングで任意のコントロールを加えることや、反応状態の情報を基にフィードバックして制御することなど、非平衡化学反応を精密かつ動的に制御することは困難だった。
今回、同研究グループは、細胞が膜小胞によって化学物質を取り込んだり排出したりする現象(エンドサイトーシス・エキソサイトーシス)に着目して制御理論を構築し、マイクロ流路技術を利用して、人工細胞型微小リアクターを開発した。これにより、細胞のように、微小な水滴を電気的に融合させたり分裂させたりして、微小水滴の内外への反応基質の供給と反応産物の排出を精密にコンピュータ制御することができた。
さらに、このリアクターを利用して、非平衡化学反応において最も特徴的な反応の1つであるリズム反応(化学物質濃度が増減して規則的なリズムを刻む反応)を自在に制御することに成功した。リズム反応は、代謝回路や体内時計など、生命システムのさまざまな場面に見られる重要な反応で、これを制御できたことは細胞内の生化学的な反応を含む、他の非平衡反応にも応用できることを示唆しているという。
同成果により、複雑な化学反応を人工細胞型微小リアクターで制御できるようになるため、将来は細胞を模倣した高機能な分子コンピュータや分子ロボットの開発、細胞状態のコンピュータ制御に基づくモデル駆動型の生命科学・医薬研究分野への応用などが期待されるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 老朽化進むインフラ設備をデータ分析技術とセンシング/無線技術で監視・管理
東京工業大学、オムロン ソーシアルソリューションズ、オムロンは、社会インフラの劣化進行の監視や地震などによる突発的な損傷を検出する新しいセンシング、モニタリング手法の共同研究を開始した。 - 多彩なIPコア製品からM2Mまで幅広く紹介、富士ソフト
2014年11月19〜21日の3日間、パシフィコ横浜で開催される「Embedded Technology 2014/組込み総合技術展」。富士ソフトはFPGAソリューションを中心に多彩なIPコア製品からM2Mまでを幅広く紹介し、来場者の課題解決につなげるとしている。 - 熱い自作系! わたしのお尻が型になりました
自らが型になってシートを作ったり、カーボンモノコックを自作したり……。今回もホットな学生モノづくりを紹介! - 研究大学で世界トップ10目指す――東工大が教育改革
東京工業大学(東工大)が「世界トップ10に入るリサーチユニバーシティ(研究大学)」を目指して教育改革推進に乗り出す。学生を“世界で活躍する人材”に育てていくための施策とは? - 開発中止の危機を乗り越えヒット商品に、「EyeSight」成功の原動力とは
富士重工業のステレオカメラを用いた運転支援システム「EyeSight」の販売が好調だ。同社の主力車種「レガシィ」では、新車販売時の装着率が90%にも達するという。ヒット商品に成長したEyeSightだが、今ある成功の陰には開発陣の20年以上にわたる苦闘があった。基礎研究の段階から開発に携わってきた樋渡穣氏に、EyeSight開発の道のりについて聞いた。