紫外線と可視光で、高速かつ可逆的に形状変化する結晶システムを発見:組み込み開発ニュース
龍谷大学は、光照射により結晶が急速かつ可逆的に屈曲する結晶システムを発見した。このシステムをソフトロボットに応用することで、光照射で物体を持ち上げたり、運んだりする機能を高速化できる。
龍谷大学は2020年10月29日、光照射により結晶が急速かつ可逆的に屈曲する結晶システムを発見したと発表した。同大学先端理工学部 教授の内田欣吾氏らの研究グループによる成果だ。
今回の研究では、光を照射すると可逆的に色を変えるフォトクロミック化合物の1つである、ジアリールエテン化合物を用いた。ジアリールエテン化合物は、光で分子中心部の閉環、開環を繰り返すことが可能で、結晶状態でも光に反応するという特徴を持つ。
ジアリールエテン化合物を昇華させて、約650×70×3μmの小さなブロードソード(刀剣)形の結晶を生成し、紫外線を照射したところ、一度光源から遠ざかるようにゆっくり曲がった後、光源側に急速に大きく曲がるという二段階の屈曲を示した。このことから、素早く屈曲する際にマルテンサイト相転位と呼ばれる結晶相転位が起こり、急激に結晶の体積が減少することで、素早く大きな形状変化が発生することを確認した。
さらに、結晶が屈曲した状態で、今度は可視光を照射すると、転位が解除され、紫外線の時とは逆の動きをしながら二段階の屈曲を経て、最初の結晶状態に戻った。
このように、光照射によって、可逆的な結晶相転位を高速かつ大きな動きで起こせることが分かった。今回の結果をソフトロボットに応用することで、光照射で物体を持ち上げたり、運んだりする機能の高速化が可能になる。また、分子構造を変更すれば、さらに複雑な動きや形状変化をする結晶システムの開発が期待できる。
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