半導体ナノ結晶を用いて光電流増幅効果の高い電界効果トランジスタを作製:研究開発の最前線
電力中央研究所と早稲田大学、Fluximの共同研究グループは、二重構造を持つ半導体ナノ結晶を用いて、これまでより大きな光電流増幅効果を持つ電界効果トランジスタを作製することに成功した。
電力中央研究所は2020年2月6日、二重構造を持つ半導体ナノ結晶を用いて、これまでより大きな光電流増幅効果を持つ電界効果トランジスタを作製したと発表した。同研究所と早稲田大学、スイスのFluximとの共同研究グループによる成果だ。
同研究では、カドミウム(Cd)とセレン(Se)のコア、カドミウムと硫黄(S)のシェルからなる、二重構造の半導体ナノ結晶「CdSe/CdS」を用いた。CdSe/CdSは、コアの直径やシェルの厚みを変化させることで物理的、化学的な性質を変えることができる。同研究グループは、厚み約10nmの高純度なCdSe/CdSナノ結晶のコロイド溶液を用いて、薄膜の厚みを約20nmに均一化したトランジスタを作製した。
次に、作製したトランジスタに紫外線を照射した場合と照射しない場合の、それぞれの電流値を計測した。その結果、未照射の場合はほぼ電流が流れないのに対し、照射時にはゲート電圧の印加に従って電流が増すことが確認された。
また、光照射前後の電流比に対する膜厚依存性やゲート電圧依存性を調べたところ、100nmを下回る辺りの膜厚の時に最も増強され、最大で約10万倍となった。これは従来のどの電界効果トランジスタよりも大きな増幅で、ナノ材料を活用した複合材料の、光センサーとしての可能性の高さが示された。
今回の研究は即座に実用化に直結するものではないが、今後、高感度な光センサーの開発につながることが期待される。また、今回用いられた溶液プロセスにより、安価でフレキシブルな電子素子の作製が可能となる。
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