ナノサイズのリアルタイムpHセンサーを開発:医療技術ニュース
京都大学は、生命現象や細胞内環境を精密計測するための超高感度センサーとして注目されるナノ量子センサーを発展させ、ナノサイズのリアルタイムpHセンサーを開発した。
京都大学は2019年9月27日、ナノ量子センサーを基に、ナノサイズのリアルタイムpHセンサーを開発したと発表した。同大学大学院工学研究科 教授の白川昌宏氏らと量子科学技術研究開発機構の研究グループによる成果だ。
ナノ量子センサーは、ナノサイズのダイヤモンドを材料とし、細胞内にある細胞小器官の温度、電場、磁場などの情報を正確に計測する極小の高感度センサーだ。生きた細胞内部のpHのピンポイント計測が顕微鏡下で行える。
研究では、ナノダイヤモンド中の格子欠陥であるNVセンターが電荷量を検出できることに着目し、ナノダイヤモンドの表面にpHに依存して電荷量が変化する化学構造を作成。その結果、ナノダイヤモンドの発する蛍光が周辺pHを反映して変化することが分かった。従来のポリマー切断のような不可逆的な反応を利用せず、長時間にわたり繰り返しpHを計測できるのが特徴だ。
pH検出の仕組みは、電子の緩和を利用している。NVセンター中の電子は、緑色の光を当てると即座に整列するが、光の照射を止めると、徐々にバラバラの方向を向く緩和現象が起きる。さらに、NVセンターには、電子の整列の度合いによって蛍光の強さが異なる性質もあり、蛍光量の変化を測ることで緩和に要する時間を計測できる。これら2つの性質から、pH依存的に帯電が変化するナノダイヤモンドを用いれば、蛍光顕微鏡でpHのナノ計測を行えると考えた。
実験では、100nmのナノダイヤモンド結晶中に高濃度のNVセンターを作成。表面にはpH4〜5以上でイオン化して電荷を持ち始めるカルボキシ基を形成し、緩和時間のpH依存性を検討した。
未処理のナノダイヤモンドでは緩和時間がpH依存性を持たないが、カルボキシ基を形成したナノダイヤモンドでは酸性域でpH依存性が確認された。また、表面をアルカリ性でイオン化するポリシステインで処理を行った場合には、アルカリ性でpHセンサーとして機能した。このことにより、表面化学処理によってナノダイヤモンドのpHセンサーの特性を自在にコントロールできることが分かった。
今後は、本技術を利用して、生きた細胞内部の状態変化のモニタリングを目指す。これにより、がんやパーキンソン病のメカニズム解明などが期待される。また、表面の化学構造を変えるだけで各種センサーをナノサイズ化できる可能性を探り、新たな産業創出への道も図るとしている。
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