機械要素の基礎〜歯車の取り扱いに必要なJISの正しい理解〜:3D CADとJIS製図(12)(3/3 ページ)
連載「3D CADとJIS製図の基礎」では、“3D CAD運用が当たり前になりつつある今、どのように設計力を高めていけばよいのか”をテーマに、JIS製図を意識した正しい設計/製図力に基づく3D CAD活用について解説する。最終回となる第12回では、代表的な機械要素である「歯車」のうち、基本となる「平歯車」を取り上げる。
インボリュート歯車
歯車の歯形は、「インボリュート歯車」を用いるのが一般的です。これは、軸断面形状が「インボリュート曲線」となるものです。インボリュート曲線とは、1つの円(基礎円)に巻き付けられた糸を緩みなく引きほどいていったときに、糸の端点が描く軌跡のことをいいます。
インボリュート歯車が多用される理由は、伝達効率や加工のしやすさに加えて、歯車の取り付け軸間距離に多少の誤差があってもかみ合い精度が良く、互換性に優れている点が挙げられます。
このインボリュート曲線は、基礎円直径が無限大になると直線に近づいていきます。言い換えると、基準円直径が無限大の歯車は直線の歯形になるということであり、これを「基準ラック」と呼びます。基準ラックに関しては、「JIS B 1701-1:2012 円筒歯車−インボリュート歯車歯形−第1部:標準基準ラック歯形」で規定されています。
歯車の図面を完成させるためには、要目表を図面に記載する必要があります。その例として、JISの記述を確認してみます。
歯車の図示(JIS B 0003:2012より抜粋/編集)
4.1.部品図の要目表および図の記入事項
歯車の部品図は、要目表および図を併用し、それぞれの記入事項は、次による。
- a)要目表には、歯車諸元を記入する。必要に応じて、加工、組み立て、検査などに関する事項を記入する
- b)図には、要目表に記載された事項から決定できない寸法を記載する。また、必要に応じて基準面を記入する
- c)材料、熱処理、硬さなどに関する事項は、必要に応じて要目表の注記欄または図中に適宜記入する
- d)図1〜図10に、各種歯車の部品図の例を示す。形状、数値、注記内容などは、全て例示であり、歯車特有の寸法以外は、記入を省略したものもある
- e)この規格の図の寸法には、寸法許容差を省略したものがあるが、実際の図面には、必要な寸法許容差を全て記入する必要がある
JIS製図のまとめ
歯車の組立図(かみ合う歯車など)や他の種類の歯車、またそれ以外の機械要素など、JIS製図についてはまだまだ解説しなければならない内容がたくさんあります。3D CADの運用により、2DによるJIS製図が不要になったわけではなく、3Dモデルに製造情報を注記として付加する「3DA(3D Annotation)」をしっかりと運用するためにも、正しい製図の知識は必要です。
本連載では、全てのJIS製図について触れることはできませんでしたが、必要に応じて適宜JIS規格を確認することで、正しい設計知識を身に付けることができます。これは設計入門者だけでなく、ベテラン設計者にもいえることで、筆者自身も折に触れてJISに目を通す必要性を強く実感しています。
使用する3D CAD環境によって機能も異なり、全てがJISに完全に一致していないかもしれませんが、JISによる標準を理解した上で運用することが重要です。長期間、本連載にお付き合いいただきありがとうございました。 (連載完)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ママさん設計者がやさしく教える「部品図の描き方超入門」
ファブレスメーカーのママさん設計者が製図初心者向けに、「部品図」の描き方を分かりやすく解説。机上の学習も大切だが、実際に自分の手で図面を描いてみることが何よりも大切だ! - 投影図のウソ・ホントをかぎ分けよう
職場で慣れ親しんだ製図作法さえ、実は間違っていることがある。今回は、投影図に関する間違い探しの出題だ。 - 加工者の技能と心遣いを引き出すための製図
設計意図と併せ加工現場の事情もできるだけよく考えながら幾何公差を指定する。それが部品や製品の品質を高める。 - 脱2次元できない、3次元化が進まない現場から聞こえる3つの「ない」
“脱2次元”できない現場を対象に、どのようなシーンで3D CADが活用できるのか、3次元設計環境をうまく活用することでどのような現場革新が図れるのか、そのメリットや効果を解説し、3次元の設計環境とうまく付き合っていくためのヒントを提示します。 - 公差がなぜ今必要なのか? 本当は日本人が得意なことのはず
機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第1回はなぜ今、公差が必要なのかについて話をする。 - 機械設計って、どんなことをするの?
設計の概念を勘違いしているならば、CADを使う意味もなく、残業続きの日々となる。20年のキャリアを持つ技術士が、あなたをデキるエンジニアにすべく、設計の考え方を根底からたたき直す。(編集部)