脱2次元できない、3次元化が進まない現場から聞こえる3つの「ない」:“脱2次元”できない現場で効果的に3D CADを活用する方法(1)(1/2 ページ)
“脱2次元”できない現場を対象に、どのようなシーンで3D CADが活用できるのか、3次元設計環境をうまく活用することでどのような現場革新が図れるのか、そのメリットや効果を解説し、3次元の設計環境とうまく付き合っていくためのヒントを提示します。
はじめに
皆さん、こんにちは! 小原照記と申します。普段は岩手県の「いわてデジタルエンジニア育成センター」という施設で3D CADを中核とした、3次元モノづくりの人材育成と“企業さんのお困りごと”を聞いて支援する仕事をしています。当センターではいろいろな3D CADを保有しており、学生や企業の方たち向けに講習会を開催したり、3Dプリンタでの試作や3Dスキャナーを使用しての検査、リバースエンジニアリングなどの受託を行ったりしています。
そんな筆者が今回、「“脱2次元”できない現場で効果的に3D CAD(3D設計環境)を活用する方法」について書かせていただくことになりました。連載第1回目となる今回は「脱2次元できない、3次元化が進まない現場から聞こえる3つの『ない』」について取り上げたいと思います。皆さまに少しでも有益な情報を提供できるよう頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。
3D CAD導入・活用ができない理由 〜3つの「ない」〜
筆者は岩手県内を中心に3D CADを普及する活動をしています。さまざまな企業を訪問して歩き、担当者の方と“脱2次元”“3次元化”についての話を進めていく中、3D CADを導入、活用できない理由として、次に挙げる3つの「ない」をよく耳にします。
- 人がいない
- お金がない
- 分からない
以降で、それぞれの「ない」について深掘りしていきたいと思います。
1.人がいない
多くの企業が「3D CADを購入しても使う人(使える人)がいないので、うちでは取り組めない」というのです。
使う人(使える人)がいないのであれば、“トレーニングなどを利用し、ある程度の期間をかけて覚えさせて、使えるようにすればよい”というのが一般的な考え方かもしれません。しかし、実情として現状の仕事が忙しく、ただでさえ人手が足りないのに、新しく3D CADの仕事をしていくのは難しい……というのが、脱2次元、3次元化が進まない大きな理由の一つになっているようです。
人がいない――。言い換えると「やっている時間がない」ということです。中小企業には、新しく人を雇う余裕はありませんし、人材確保そのものが難しい時代でもあります。それ故、“3D CADをやる人がいない”というのです。3D CADに関して理解のある経験者を雇うことができれば一番良いのですが、なかなか難しいのが現状のようです。
2.お金がない
「3D CADソフトは高価で買うお金がない」というのです。ミッドレンジと呼ばれる3D CADだと1本100万円程度の購入費用がかかり、ハイエンドとなると500万円以上します。他にもハードウェアの購入費や教育費、毎年の更新費やサポート費などもかかり、中小企業にとっては、なかなか手が出せない金額で、仕事が増える保証もないので投資に踏み切れないというのが実情です。
今は安価に使える3D CADソフト(例えば、オートデスクの「Fusion 360」など)も出てきているので導入費については、問題をある程度クリアできるようになってきています。しかし、「1.人がいない」にもつながりますが、「3D CADを扱える人を雇うお金がない」「教育するお金がない」という理由も当然ながらあります。
3次元化のよくある失敗例として、3D CADを購入したもののトレーニング費をケチってしまって、使い方が分からず、結局2次元設計に戻ってしまった……という話を耳にします。3次元化を進めるには設備だけではなく、教育にもある程度お金をかける必要があるのです。
3.分からない
「1.人がいない」「2.お金がない」は、確かに脱2次元、3次元化に取り組めない大きな理由です。しかし、最大の理由は「分からない」ということです。
分からないというのは、「3次元のメリットが分からない」「3D CADの使い方が分からない」「活用法が分からない」「運用の仕方が分からない」など、3次元に対しての理解不足が原因といえます。つまり、自社に3次元を導入することで得られるメリットをきちんと理解できれば、お金を投資して、人を確保し、3次元化に取り組むことも不可能ではないはずです。
筆者が企業を訪問し、当初「3次元化は必要ない!」と言っていた企業も、実際に3D CADのモデリング機能やアセンブリ、図面化、干渉チェック、質量計算などのやり方をデモで見せると、「こんなに簡単な操作でできるのか!?」と驚き、3次元化に踏み切ったという例も少なくありません。
また、筆者が3次元化を企業に薦める際は、「目的を明確化すること」を必ず伝えるようにしています。具体的には、次の3つです。
1つ目は「貢献度の明確化」です。3次元の導入前と導入後の姿をイメージし、どのような導入効果を期待しているのかを明確化します。2つ目は、現在の業務プロセスの中に、どのように組み込まれるのか、誰の作業が、どのように変わるのかといった「役割の明確化」です。そして、3つ目が「運用の明確化」で、誰が評価を行い、継続的な運用を行うのか、いつ、どのタイミングで、どのような評価をするのかなどを決めます。
初めて3次元に取り組む企業にとって、あらかじめ、ここまで深く考えるのは難しいかもしれません。このあたりの詳しい内容は、今後の連載の中で紹介したいと思いますので、ぜひご期待ください。
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