プロジェクター市場半減の衝撃、カシオの生きる道は“組み込み”へ:組み込み開発 インタビュー(3/3 ページ)
コロナ禍もあってプロジェクター市場が急減している中、カシオ計算機は独自のプロジェクター技術を生かすべく、「プロジェクションAR」向けに用いられる組み込みプロジェクションモジュールを新規事業として立ち上げた。現在、最も強い引き合いがあるのが、スマートファクトリー向けの作業ガイドだという。
スマートファクトリーにおける作業ガイドの引き合いが強い
カシオが組み込みプロジェクションモジュールの対象市場と想定しているのがプロジェクションARだ。AR(拡張現実)というと、スマートフォンゲームのようにモバイル端末のカメラを通して現実世界とCGを重ね合わせたり、マイクロソフトの「HoloLens」のようなヘッドマウンディスプレイにグラフィックスを投影したりするイメージが強い。一方、カシオが唱えるプロジェクションARは、物体にプロジェクターから出力された映像を重ね合わせることで、現実世界にあるものとデジタル情報が融合した表示を行うARの表現手法を指す。
このプロジェクションARのターゲットとして期待しているのが「スマートホーム」「スマートビルディング」「スマートファクトリー」の3つの市場である。スマートホームは、コロナ禍による衛生ニーズの高まりやリモートワークの定着、快適・便利の進化、スマートビルディングは、高齢化社会への対応やバリアフリー、ソーシャルディスタンス、スマートファクトリーは労働力不足や品質向上、有人作業環境の改善などが成長ドライバーとなり、それぞれ市場規模は2019年から2024年にかけて40〜70%成長するという調査結果もある。
直近でプロジェクションARのニーズが最も強いのがスマートファクトリーだ。カシオは2022年1月開催の「第36回 インターネプコン ジャパン」に出展し、製造現場×プロジェクションARをテーマにした展示を行い、来場客からの注目を集めた。
中でも最も反応が大きかったのが、OKIとコラボレーションした「工場内作業ガイド」だ。熟練者の高齢化や引退などにより工場での技術承継が課題になる中、組み立てラインでの作業内容を指示する作業ガイドは経験の浅い作業者を支援する有効なソリューションになるとみられている。ただし、現行の作業ガイドの多くはタブレット端末をはじめとするディスプレイに表示されているため、間接的な指示にならざるを得ない。これを、実際に作業を行う部品や材料に対してARを使って直接指示できれば、ディスプレイに視線を移さずに済むなどさらなる効率化が可能だ。「当社の組み込みプロジェクションモジュールは組み立てブースのポールに引っ掛けて使えるので、既存のインフラに簡単に組み込める。セミセルでの活用はOKIも有力視している」(古川氏)。また、0℃でも動作する性能から、食品倉庫での仕分け作業での活用も期待できるという。
この他、東京エレクトロン デバイスの3Dロボットビジョンシステム「TriMath」のバラ積みピッキングにおいて、ピッキング対象物の形状認識を行う格子パターンを投影する用途や、床面への投影による作業現場のフロアガイドなどの事例も披露した。TriMathは2022年1月から販売されており、床面投影は製造現場におけるレイアウト変更などの用途でも引き合いがある。
今後の事業展開では、スマートファクトリー向けであれば工場などFA系のSIerや代理店などとの連携を深めていく考え。パートナー企業との連携が事業拡大に向けて必須になるとみている。カシオは、組み込みプロジェクションモジュール事業に先駆けて半導体光源技術自体の外販を2016年から行っており、そこで培った装置や設備、機器への組み込みに関するノウハウも適用できるとしている。
組み込みプロジェクションモジュール事業の売上高目標は、2025年に100億円規模を掲げる。古川氏は「2025年時点では、スマートファクトリーが約6割、スマートビルディングが約3割、残りがスマートホームを想定している。スマートホームは浸透に時間がかかるが、あるタイミングで大きく化けるのではないか」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 電卓や楽器に並ぶ事業に、カシオのデジカメ技術を受け継ぐAIカメラの実力
カシオ計算機は現在、超高速低消費電力AIカメラモジュールの開発に取り組んでいる。同社は2018年にコンシューマー向けデジタルカメラ市場から撤退したが、デジカメで培った技術は大きな財産として残された。その技術資産で開発したものの1つがAIカメラモジュールだ。担当者にAIカメラの技術詳細と市場戦略について話を聞いた。 - カシオがエンドポイントAIカメラの事業化へ、リョーサンとエコシステムを構築
カシオ計算機は、「第11回 IoT&5Gソリューション展 春」のリョーサンブースにおいて、開発中のエンドポイントAIカメラモジュールの試作機を披露した。今回の参考出展を契機に、入退室管理や工場内の作業分析、店舗における顧客分析などの用途に向けて2022年度内を目標に事業化を目指す。 - オリジナルG-SHOCK作成サービスを実現したカシオのサプライチェーンDX
キナクシスは2021年12月1日、サプライチェーンマネジメントのデジタル化をテーマとしたイベント「BIG IDEAS in Supply Chain|JAPAN」をオンラインで開催した。本稿では当日のプログラムから、カシオ計算機が展開する時計ブランド「G-SHOCK」のカスタマイズサービス「MY G-SHOCK」を支えるDXを解説したセミナーを抜粋して紹介する。 - カシオのネイルプリンタは技術で女心に応える、端まできれいで安心安全も
カシオ計算機でネイルプリンタの開発に携わったメンバーは、シールやハガキ、写真のプリンタ、インクジェット技術、カメラ、関数電卓などさまざまな分野から集まった。企画当初からネイルプリンタをターゲットにしていたのではなく、「曲面印刷技術を新規ビジネスとして育てられないか」というテーマで2009年ごろから用途を模索していた。 - デジカメの魂は死なず、皮膚科医向けカメラでよみがえるカシオのDNA
2018年5月、コンシューマー向けコンパクトデジカメラ市場からの撤退したカシオ計算機。「B2B用途やカメラ技術を応用した新ジャンル製品など、カメラを別の形で生かした新しい製品に事業を切り替えていく」としていたが、その方針が形となった製品が発表された。皮膚科医向けの業務用カメラ「DZ-D100」だ。 - 「QV-10」でデジカメのカタチを作ったカシオ、コンパクトデジカメ市場から撤退
カシオ計算機はコンパクトデジタルカメラ市場から撤退することを発表した。