電卓や楽器に並ぶ事業に、カシオのデジカメ技術を受け継ぐAIカメラの実力:イノベーションのレシピ(1/2 ページ)
カシオ計算機は現在、超高速低消費電力AIカメラモジュールの開発に取り組んでいる。同社は2018年にコンシューマー向けデジタルカメラ市場から撤退したが、デジカメで培った技術は大きな財産として残された。その技術資産で開発したものの1つがAIカメラモジュールだ。担当者にAIカメラの技術詳細と市場戦略について話を聞いた。
コンシューマー向けデジタルカメラ市場から2018年に撤退したカシオ計算機。だが、1995年に発売した「QV-10」を皮切りに国内のデジタルカメラ市場を切り開き、けん引してきた同社の技術は、新製品の中で今なお生き続けている。
そうした製品の一例を挙げると、HDR(High Dynamic Range)変換を利用してほくろと悪性の腫瘍(しゅよう)を見分ける皮膚科医向けの業務用カメラ「DZ-D100」がある。またPoC(概念実証)段階ではあるが、爪の形状などを画像認識して塗りを施すネイルプリンタなどにもその技術は生かされている。
そして現在、カシオ計算機がデジタルカメラの技術を生かす次の市場として狙うのがAIカメラ市場である。具体的にどのように技術を活用しているのか。また、どのように市場展開を描いているのか。カシオ計算機 事業開発センター イメージング開発統轄部 統轄部長の松原直也氏に話を聞いた。
ルネサスと共同開発したMPUを搭載
MONOist 開発中のAIカメラについて概要を教えてください。
松原直也氏(以下、松原氏) 高速処理かつ低消費電力を特徴とするAIカメラモジュールだ。「Easy to Use」を開発コンセプトとして掲げており、AI処理がカメラモジュール内で完結するため、どんな使用状況でも簡単に画像解析が行える。
カシオがこれまでデジタルカメラ事業(QV事業)で培ってきた画像処理技術に加えて、当社の協創パートナーであるルネサスと共同開発した、ISP(映像処理プロセッサ)を内蔵するMPU(マイクロプロセッサ)を搭載する。
当社は2018年度に発表した中期経営計画の資料中で、新規事業構想として「イメージングモジュールビジネス事業(イメージング事業)」を発表した。現在開発中のAIカメラモジュールはこの事業で中核的な役割を担うことになる。新規事業だが、将来的には当社の電卓、時計、楽器事業に並ぶ規模に成長させたい。
事業の具体的な内容としては、顔認証をはじめとする「生体認証」への活用と、人流や物流の量/質/動きを可視化する「見える化ソリューション」の2つを主軸に考えている。この他、工場や家庭用セキュリティ、介護での“見守り”用途での展開も考えており、今後のAIカメラ需要の裾野を拡大していくという意識で取り組む。
なお、ホームセキュリティや介護領域での展開は、当社が直接コンシューマーに販売するのではなく、例えば、ホームセキュリティや介護事業者の事業会社との連携を通じて製品を提供するという形態を検討している。
AIカメラモジュールの製品提供方式は、カメラとして組み上げた完成品の提供と、組み込み用モジュールのみを提供する2つの方式を考えている。
他社製品と比べて消費電力は3分の1、処理性能は1.3倍
MONOist 出荷時期はいつ頃になる見通しでしょうか。また、販売価格はどの程度を想定していますか。
松原氏 当初計画からは遅れが生じているが、2021年秋頃には製品出荷を行う予定だ。
価格については未定だが、カメラ単体でAI処理が行えるためクラウドに接続するためのネットワークシステムなどが必要なく、その分、他社製品よりも価格的なメリットを出しやすいと考えている。
MONOist 「高速処理かつ低消費電力」という特徴について、具体的にはどのくらいの数値を記録しているのでしょうか。
松原氏 当社のAIカメラに使っているMPUと、汎用GPUを搭載した他社製品で、AI画像認識アルゴリズム「TinyYolo v2」を用いた比較実験を行った。結果、他社製品の消費電力は10W、フレームレートは28fpsだったのに対して、当社のMPUは消費電力が3W、フレームレートは34fpsを達成した。つまり、AI画像処理において消費電力を他社製品の約3分の1に抑える一方で、処理能力は1.3倍を達成したことになる。
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