燃料電池工場の電力を燃料電池でまかなう、パナソニックが「世界初」の実証施設:脱炭素(2/2 ページ)
パナソニックは2022年4月15日、同社の草津事業所で、純水素型燃料電池などによって、工場消費電力を再生可能エネルギーで100%まかなうための実証施設「H2 KIBOU FIELD」の稼働を開始した。自家発電燃料として水素を本格的に活用し、工場の稼働電力をまかなう実証としては「世界初」(パナソニック)の試みだという。
年間約2.7GWhを再エネでまかなう
燃料電池工場の電力需要は、昼間は約600kWh、夜間は約300kWhで、ピーク電力は約680kW、年間電力需要は約2.7GWhという。昼間は純水素型燃料電池と太陽電池で発電し、夜間は主に純水素型燃料電池で発電する。電力不足時はリチウムイオン蓄電池から供給する。年間電力需要の約80%は純水素型燃料電池でまかなうことになると見積もられており、年間水素消費量は約120トンになると想定される。
施設には水素を貯蔵する水素タワーも設置する。貯蔵量は約7万8000リットルで、供給は岩谷産業が行う。なお、現時点では製造過程でCO2を排出するグレー水素を活用しているが、将来的には再生可能エネルギーで製造されたグリーン水素の活用も検討する。
3つの電池の連携には、パナソニックが独自に開発したエネルギーマネジメントシステムを用いる。工場施設内での機器の運転状況をモニタリングして、電力需要に対する太陽電池における発電量の予測値から、純水素型燃料電池の運転調整や、リチウムイオン蓄電池の活用などを通じて、安定的な電力供給体制を実現する。
メンテナンスが容易な純水素型燃料電池
純水素型燃料電池はパナソニックが2021年10月に発表したもので、同社が培ってきたエネファーム技術を応用した製品となっている。水素を取り出す燃料処理機を不要にしたことで、エネファームよりも小型かつシンプルな構造の電池セルを実現した。コージェネレーションシステムを活用することで、産業用途で使用できるほど高温にはならないものの、温水として活用することでエネルギー効率を約95%にまで高められるという。
5kW単位で発電量を調整できるため、施設の屋上と地上に分けて設置するなど、土地形状に合わせた柔軟なレイアウトを可能にした。メンテナンスや故障時にも基本的には1台ずつ停止して点検、調査できるため、発電を一斉停止する必要がない。5kW単位で増設することで、発電量を細かに調整することも可能。発電時間をシミュレートして、それを基に1台ごとの稼働時間を平準化することで、機器劣化を可能な限り抑える仕組みもある。
パナソニックはH2 KIBOU FIELDのエネルギーシステムを、電力需給運用に関する技術開発や検証を経て、2023年から日本国内や、欧州、中国など海外で「RE100ソリューション」として展開する計画だという。
パナソニック エレクトリックワークス社 スマートエネエネルギーシステム事業部 燃料電池/水素事業統括の加藤雅雄氏は、ソリューションの導入費用感について「現時点では各種発電用設備や制御システムなどを合わせて10数億円規模になると見ているが、早期に数億円規模での導入が可能となるよう取り組む」と説明した。
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