400海里、40時間の実証航海で見えてきた無人運航の実力:船も「CASE」(4/4 ページ)
日本財団が進めている無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」と、その支援を受けて無人運航船システムの開発を進めているDFFAS Projectコンソーシアムは、2022年2月26日〜3月1日にかけて実施した無人運航船実証実験に関する記者発表会を開催し、実証実験の概要と成果について明らかにした。
船酔いするほどの荒れた海で、航海時間の99.7%を無人航行
「すざく」による無人運航の実証実験では、「開発した無人運航システムの機能を用いて東京港、津松阪港の航行を完遂できること」を目標に設定していた。実証実験期間中は周囲に多くの他船が航行する中での航海となり、特に輻輳海域として懸案していた東京湾(浦賀水道)や伊良湖水道では、電子海図に記録された航跡から多くの船舶と衝突する可能性がありながらも、適宜安全な航路をシステムが立案し航行していった過程が示された。
実証実験期間の海象条件は悪く、風力は30.7ノット(風速16.8m)、うねりの高さが2.5mと時化(しけ)ており動揺角は左右合わせて13度近くに達するという状況だ。乗船していた機器オペレーターが船酔いで動けなくなり実験の継続が危ぶまれたほどだったが、無人運航を継続することができたという。
実証実験の操船では、スラスターを使った自力離桟の後(システムとしては完全自動離桟も可能)、岸壁から40m離れた時点から無人運航システムを有効にし、東京港や浦賀水道などの輻輳海域を無人運航で航行、東京港大井水産物ふ頭では自動着桟を成功させている。従来の自動着桟は事前にプロットした航路に従って岸壁までアプローチするが、DFFASシステムによる自動着桟では、岸壁直前で外部応力(周囲の風や潮流で船が流される影響)を取得、判断して最適な航路をリアルタイムで立案し、システムが選択した航路に従って自律で操船する。
実証実験中、往路は航海距離が207.5カイリ(384.3km)、航海時間が20時間10分で、そのうちDFFASシステムによる無人運航は19時間30分に及んだ。平均速力は10.3ノットで、避航回数は107回に上った。同様に復路は航海距離216.4カイリ(400.8km)で航海時間は19時間38分、無人運航は19時間34分と実に航海時間の99.7%が無人運航となった。平均速力は11ノットで避航回数は34回だった。
桑原氏は、今回の実証実験で認識された課題として、船側システムと陸上システムをつなぐ通信システムにおいて、陸上と同等の安定したネットワークの構築が困難なことを挙げている。また、漁船などの小型船舶を避航する場合、避航航路は即時に立案できるが、立案した避航航路に対する自律操船の追従速度の不足も課題として挙がったという。
実証実験でも、小型船舶に対する避航で、自律操船、設定航路変更による遠隔操船が間に合わず、船橋にいる船長による操船に切り替えたケースが、浦賀水道、伊良湖水道でそれぞれ1回ずつ起きている。
MEGURI2040では、今回の「すざく」を含めて全6回予定している2021年度の実証実験を取りまとめ、2025年には実航路における無人運航船の本格導入を目指して今後の開発を進めていくとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “船長の技”のクラウド共有で、海のデジタルトランスフォーメーションを実現する
日本気象協会とアイディアが2021年9月27日、「海事デジタルトランスフォーメーション」を推進するパートナーとして協業することを発表した。 - 自律運航船の遠隔監視・操船を担う「フリートオペレーションセンター」に潜入!
海事企業など国内30社が参画する「Designing the Future of Full Autonomous Ship プロジェクト」の「フリートオペレーションセンター」が、2021年9月2日に竣工した。自律運航船の航行を主に遠隔監視と遠隔操船で支援する陸上拠点で、複数の自律運航船を遠隔監視できる「統合表示ブロック」と個別に遠隔操船できる「非常対応ブロック」で構成される。また、自律運航船に搭載する舶用機器とシステムの運用試験を陸上で実施できる想環境も用意した。 - 自律運航船の複雑怪奇な法的立場、自動運転車のように議論が進む
「中の人には常識だが外の人はほとんど知らない」船舶運航に関する法律の視点から、自律運航船の法的制約とあいまいな部分、そして、IMOの総会「MSC103」で示された内容で今後自動運航関連法がどのように変わるのかを解説する。 - 人手不足と高齢化の漁業を救う、「自動着桟システム」の最前線
ヤンマーは、「最大の豊かさを最小の資源で実現する」というテクノロジーコンセプトを掲げ、そのコンセプトを実現する研究開発テーマを定めている。マリン関連の研究開発テーマとしては、海域調査やインフラ点検などに貢献する「ロボティックボート」、1本のジョイスティックだけで操船できるようにする「ジョイスティック操船システム」「自動航行」と「自動着桟」、そして、船舶特有の動揺を抑制する「サスペンションボート」に取り組んでいる。 - 自動航行時の重大事故を防止せよ、商船三井が衝突回避アルゴリズムを共同研究
商船三井は2020年10月19日、MOLマリン、海上技術安全研究所と東京海洋大学、商船三井テクノトレード、YDKテクノロジーズと共同で「避航操船アルゴリズムと避航自動化」に関する共同研究の実施に合意し、契約を締結したと発表した。針路上にいる船舶を避けて自動航行するアルゴリズム開発に取り組む。研究の一環として、船舶を用いた東京湾での実証実験も実施する。 - 日本郵船の避航操船AIが学ぶ、「ベテラン船長の技」とは
日本郵船は日本の大手“海運”会社の1つだ。そのグループ企業には船舶関連技術の研究開発に取り組む日本海洋技術とMTIがある。彼ら日本郵船グループが手掛ける研究開発案件は、自動運航関連からリモートメンテナンス、環境負荷低減、高効率舶用ハードウェア、船舶IoT、航海情報統合管理システム、操船支援システム、船陸情報共有プラットフォームなど多岐にわたる。