パナソニックが新規事業を育てる組織を新設、人を理解する製品とスポーツを軸に:イノベーションのレシピ
パナソニックは2022年3月3日、組織としてイノベーションを起こす仕組みとして2021年10月1日に設立したBTCイノベーション室の取り組みについて説明。イノベーションの循環を生み出すさまざまな取り組みと共に、新たにプロスポーツチームと連携した地域とくらしへの貢献を目指した「ホームタウンDX」への取り組みについて紹介した。
パナソニックは2022年3月3日、組織としてイノベーションを起こす仕組みとして2021年10月1日に設立したBTCイノベーション室の取り組みについて説明。イノベーションの循環を生み出すさまざまな取り組みと共に、新たにプロスポーツチームと連携した地域とくらしへの貢献を目指した「ホームタウンDX」への取り組みについて紹介した。
失敗の知見を蓄積する
BTCイノベーション室は、グループCTO傘下の事業開発室内に設立。事業開発室はもともと、ソフトウェアやサービスソリューション系の新規事業を短期で立ち上げをしていく上での知見やノウハウを組織として蓄積し、オープンイノベーションの発想で社外も含むネットワークのハブにもなる役割を持つ。その中でBTCイノベーション室は、事業開発室のミッションを実践する組織として、新規事業のインキュベーション(企画創出から企画育成まで)と組織能力の強化と蓄積を行う。現在コア人材は11人だとしているが、パナソニック社内外からの人材が参加しているという。
基本的には社会課題を起点とした企画の創出と、その育成、事業化への道筋を付けるという役割を担う。各企画起点のプロダクトを事業として成り立たせるための拡張を図る「タテの先鋭化」と、事業開発の知見やノウハウそのものを蓄積する「ヨコの活動」の2軸を取り組みの中心としている。
パナソニック コーポレート戦略・技術部門 事業開発室 BTCイノベーション室 室長の中村雄志氏は「社会に貢献する事業を作ることが役割だ。そのために成功事例を残すことよりも失敗のプロセスの蓄積と共有に力を入れていく。また事業化のひな型や人材の育成などにも取り組む」と語っている。
多くの企業で新規事業への取り組みの中では収益性をどう捉えるかという問題を抱えているが、BTCイノベーション室では「プロジェクトごとにどのくらいの時期にどのような収益をもたらすのかを個別に管理している。例えば、IoT(モノのインターネット)機器サービスを事業化する際に、機器を無料で配布した方が課題解決につながり将来の継続的な収益につながるのであれば、積極的に配布していくべきだと考えている。個々の事業を見定めて進めていく。KPIとしては収入と支出は見ているが、インキュベーションフェーズであるので、ユーザー数や継続率などを重視している」と中村氏は語っている。
人を理解するプロダクトで、スポーツチームと地域を結ぶ
実質的にはさまざまな領域の部門から「相談を受けている」(中村氏)としているが、リソースには限界があるため、当面は「人を理解するプロダクト」を基軸に「プロスポーツ」を中心とした事業創出に取り組む。具体的には「CHEERPHONE(チアホン)」「ENY feedback(エニーフィードバック)」「Uttzs(ウツス)」という3つのプロジェクトを推進しているという。
「チアホン」はスポーツチームとファンとをつなぐ音声のライブメディアプラットフォームだ。スマートフォン1台で活用が可能で音声による解説を聞きながらライブ観戦を行うなど、新たな観戦体験の創出と定着を目指している。すでにJリーグチームであるガンバ大阪を含むさまざまなスポーツチームや団体に導入しており、事業化への取り組みを進めているところだという。「エニーフィードバック」は、スポーツチーム向けの集客効果の測定ソリューションである。ID化が困難なライト層の声を収集し、ファン基盤の拡大に向けたマーケティング施策の効果検証と効果最大化を目指す。「ウツス」は、展示会のオンラインアーカイブ・コミュニケーションツールだ。バーチャル展示空間でのコミュニケーションや購買も可能なプロダクトを目指している。メタバース関連のプロジェクトとして新たな企画も検討しているという。
これらのプロジェクトを含め、スポーツチームとの共創型事業で、地域とくらしへの貢献を目指す活動として「ホームタウンDX」を推進。スポーツチームや地域の企業様と共に、地域の課題を理解し、解決するための取り組みを進めているという。既に水戸市とJリーグチームの水戸ホーリーホックとの協力で、具体的な企画の検討を開始している。
また、これらの取り組みの中で活用しているデザインシンキングの手法を企業や組織にワークショップを提供する取り組みも行っている。中村氏は「イノベーションエコシステムの中で共創を当たり前にしていく。クローズドイノベーションとオープンイノベーションあるけど、目指すのは、イノベーションネットワークスの世界だ。新しいものにチャレンジするのを個人だけでなく組織に広げていきたい」と語っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- パナソニックの「とがったアイデア」を展示、蔦屋家電+でプロトタイプ展開催
パナソニックは2021年11月8日〜14日にかけて、同社が展開するデザインスタジオ「FUTURE LIFE FACTORY」が制作したプロトタイプを紹介する「未完成の未来 FUTURE PROTOTYPE展」を「蔦屋家電+」で開催中だ。 - パナソニックが“コケ”でこんもり覆われた6足歩行ロボットを作った理由
パナソニックは2021年7月6日、同社のロボティクス技術などを活用して「Aug Lab」の2020年度成果発表会を開催した。“コケ”で装飾された6足歩行ロボット「UMOS」など、動植物との共生をテーマとした作品を発表した。 - 人の感性や能力を拡張、パナソニックのAug Labが研究パートナー募集
パナソニックは2020年4月23日、2019年に設立した「人間の能力や感覚の拡張」をテーマとした学際的バーチャルラボ「Aug-Lab」の取り組みについて、メディア向けオンラインセミナーで紹介。1年間の活動成果を発表するとともに、さらなるオープンイノベーションを加速させるために、新たな共同研究パートナーの募集を発表した。 - その製品が売れないのは「良くないから」だ――一橋大学米倉教授
日本の製造業の競争力低下に対する危機感が叫ばれているが、競争力を生み出すイノベーション創出にはどのように取り組むべきだろうか。イノベーション研究の第一人者である一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏に聞いた - “革新”を「天才が生む」と考える日本、「組織で生み出す」と考える世界
日本GEは、日本の産業のさらなる成長に向けた提言を行う「“Japan is Back”フォーラム」を開催。今回はテーマを「イノベーション」とし、GEグループが世界26カ国の経営者3200人に対して実施しているイノベーションに対する調査「GEグローバルイノベーション・バロメーター」の結果を基に、日本と世界のイノベーションに対する取り組みの違いなどを紹介した。 - イノベーションを生む「デザインマネジメント」の力とは【前編】
「デザインが経営を革新する」というと、少し大げさだと思うだろうか。しかし、実際に「デザイン」を基軸にして新たな視座に立つことにより、多くの事業革新につながるケースがあるという。「デザインマネジメント」を切り口に多くの企業の事業革新に携わるエムテド 代表取締役の田子學氏に話を聞いた。 - オープンイノベーションとはいうけれど、大手と組んで秘密は守れる?
オープンイノベーションやコラボレーションなど、社外の力を活用したモノづくりが、かつてないほど広がりを見せています。中小製造業やモノづくりベンチャーでも「大手製造業と手を組む」ことは身近になってきました。でも、ちょっと待ってください。その取引は本当に安全ですか。本連載では「正しい秘密保持契約(NDA)の結び方」を解説していきます。 - “革新”を「天才が生む」と考える日本、「組織で生み出す」と考える世界
日本GEは、日本の産業のさらなる成長に向けた提言を行う「“Japan is Back”フォーラム」を開催。今回はテーマを「イノベーション」とし、GEグループが世界26カ国の経営者3200人に対して実施しているイノベーションに対する調査「GEグローバルイノベーション・バロメーター」の結果を基に、日本と世界のイノベーションに対する取り組みの違いなどを紹介した。