オープンイノベーションとはいうけれど、大手と組んで秘密は守れる?:いまさら聞けないNDAの結び方(1)(1/3 ページ)
オープンイノベーションやコラボレーションなど、社外の力を活用したモノづくりが、かつてないほど広がりを見せています。中小製造業やモノづくりベンチャーでも「大手製造業と手を組む」ことは身近になってきました。でも、ちょっと待ってください。その取引は本当に安全ですか。本連載では「正しい秘密保持契約(NDA)の結び方」を解説していきます。
はじめに
皆さん初めまして。本連載を読んでいただきありがとうございます。この連載記事の執筆を担当します弁護士・弁理士の柳下彰彦(ヤギシタ アキヒコ)と申します。どうぞよろしくお願いします。
本連載のテーマについて説明する前に、筆者である私の経歴と現在の職務を紹介させていただきます。筆者は理科系の大学院を修了して化学メーカーに入社し、エンジニアとして約6年働いた後、弁理士資格を取得して同じメーカーの知的財産部で約7年働きました。その後、弁理士として独立し夜間の法科大学院に通って司法試験を受験し、弁護士資格を取得しました。こういう経歴ですので、弁護士としての専門は、特許法、商標法、著作権法など知的財産に関する法律になります。現在は、テクノロジー系又はモノづくり系ベンチャー企業、中小・中堅・大企業を中心に、法律相談、契約書作成、特許出願のアドバイスや企業訴訟などを担当しています。
本連載は、企業内に法務部や知的財産部がない中小・中堅企業(もしくはベンチャー企業)が、大企業から協業を持ちかけられた段階で、自社の秘密情報(例えば技術ノウハウ)を守りつつも、協業の検討を円滑に進めるにはどのような点に気を付けたらよいかということをテーマとしています。
ただ、法律論だけでは退屈ですので、フィクションで「ある中小製造業と大手自動車メーカーの取引があったら」という設定を置き、その事例を基に秘密保持において気を付ける点を紹介していきたいと考えています。
従業員15人の中小製造業「大江戸モーター」が大手自動車メーカーである「CFGモーターズ」から協業を持ちかけられるという中で、大江戸モーター社長である江戸健太郎氏(もちろん架空の人物です)は何を考え、どのように行動すべきかということを解説します。それではどうぞ最後までお付き合いください。
本連載の登場人物
江戸 健太郎(えど けんたろう)
大江戸モーター 代表取締役社長。小さいけれど技術力に優れたモーター企業の創業者。通称、えどけん。
矢面 辰夫(やおもて たつお)
業界最大手の自動車メーカーであるCFGモーターズの新規事業開発部門に所属。やり手。
*編集部注:本記事はフィクションです。実在の人物団体などとは一切関係ありません。
大江戸モーターは、設立15年目で従業員が15人のいわゆる中小企業です。社長の江戸健太郎(以下「江戸氏」といいます。)は「今後は燃料電池車の時代が来る」と予測し、電気自動車に必要な出力を確保しつつも小型化したモーターの開発を数年前から進めています。そして、江戸氏を中心とする開発チームは、今年になって出力を従来どおり維持しつつもモーターの大きさを半分にできるモーターの小型化技術の開発に成功しました。
そこで、大江戸モーターは、自動車の部品メーカーが集まる展示会で、自社の小型モーターを出展しました。ただし、小型化技術の内容は大江戸モーターが開発した秘密情報(社外に公開していない情報)なので、その内容は秘匿しました。小型モーターにはそれなりの反響があり展示会は成功し、江戸氏は大きな手応えを感じていました。さて、いよいよ協業交渉がはじまります。
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