低抵抗で高透過率の透明導電フィルム、パナソニックがロールtoロール新工法で開発:組み込み開発ニュース
パナソニック インダストリー社は2022年2月16日、低抵抗値と高い透過率を実現するメタルメッシュ方式の透明導電フィルムを商品化したと発表した。独自のロールtoロールでの両面一括配線工法を開発したことで可能としている。
パナソニック インダストリー社は2022年2月16日、低抵抗値と高い透過率を実現するメタルメッシュ方式の透明導電フィルムを商品化したと発表した。独自のロールtoロールでの両面一括配線工法を開発したことで可能としている。
透明導電フィルムはタッチパネルディスプレイなどで多く使用されている。タッチパネルディスプレイは用途の拡大と共に高度化が進んでおり、大型化や高画質化、狭ベゼル化を含むデザイン性、折り曲げなどのフレキシブル化、高感度化などのニーズが生まれている。高まるこれらのニーズに応えていくためには、既存技術の延長線上では難しい部分があるため、パナソニックでは新たな工法に取り組んだ。
透明導電フィルムにはITO(酸化インジウムスズ)を活用した方式と、フィルム表面に金属をメッシュ状に張り巡らすメタルメッシュ方式があるが、今回は安価な材料で優れた屈曲性、低い抵抗値という特性を持つメタルメッシュ方式を採用。メタルメッシュ方式が従来持つ配線幅による配線見えや透過率減少などの課題克服を目指した。メタルメッシュ方式はフィルム上に金属配線をメッシュ状に配線するが従来のエッチング工法では、配線の交差部分でメタル残りが生まれこれがフィルムの透過率に影響を与えるケースがあった。また、メタルの厚みと細線化がトレードオフの関係となり、低抵抗で細い線を実現しにくい状況があった。
そこで、新たに開発したのが、ロールtoロールで両面一括配線を行う新工法の開発だ。これはフィルム上に両面同時に細かい溝を形成し、この溝にメタルを配線するというものだ。
フィルムに刻んだ溝によりメタル残りなどの課題を解決できる。溝の深さの分だけメタル配線部分の表面積を下げることができるため細線化が可能となり、フィルムの透過率を高めることができる。さらに、ロールtoロールでの生産方式を確立しており、生産性も確保できる。
パナソニック インダストリー社 メカトロニクス事業部 タッチソリューションビジネスユニット ビジネスユニット長の吉川祐一氏は「業界のどこもやっていない新たな工法を開発したため苦労も多かった。2014年頃に着想したが設備設計から試行錯誤し、4〜5年かけて原理原則を固めた。その後3年くらいをかけて量産に近いラインで課題出しを行い、ようやく製品化レベルにこぎつけた。もともとのタッチセンサーのノウハウに加え、液晶や半導体、光ディスク、磁気テープなどの技術者を加え、これらのノウハウを組み合わせることで実現できた技術だ。競合他社も簡単にはまねできない」と胸を張る。
新たな透明導電フィルムの生産は、岡山県津山市の津山工場に量産ラインを持ち、そこで行っているが「今後数が増えてくれば、中国の青島工場でも生産することを検討する」(吉川氏)。新工法による用途拡大により、透明導電フィルムの売り上げは2025年度で約50億円の規模に拡大する計画だ。吉川氏は「従来はタッチパネルディスプレイ用が多かったが、透明アンテナや透明ヒーター、透明ディスプレイ基板、高周波用反射板など新たな用途の開拓にもつなげていきたい」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「透ける電池」の使い道は? 黒子から脱却できるか
日本電信電話(以下、NTT)は、「NTT R&Dフォーラム2018(秋)」の報道陣向け先行公開において、光透過性を有する二次電池「透ける電池」を披露した。電力を供給する“黒子”として用いられてきた電池を従来とは異なる形で利用できる可能性がある。 - AIを活用し、フレキシブル透明フィルム開発の実験回数を25分の1以下に低減
産業技術総合研究所は、AIを活用することで、フレキシブル透明フィルム開発の実験回数を従来の25分の1以下に低減した。相反する複数の要求特性がある機能性材料開発への応用展開が期待できる。 - 2つの成膜工程を一体型したロールtoロール成膜装置
日立造船は、フィルム基板対応の反射防止膜と防汚膜の成膜工程を一体型した、ロールtoロール成膜装置「HARD-F series」を発売した。製造ラインをコンパクトにし、製造時間を短縮する他、膜の防汚、耐久性能が2倍以上に向上している。 - 高画素化進む遠赤外線センサー、パナソニックが非球面レンズの量産コストを半減
パナソニックが高解像の遠赤外線センサーに必要な遠赤外非球面レンズの量産技術を開発。硫黄やセレンなどを含むカルコゲナイドガラスと、同社がデジタルカメラ向けなどに培ってきたガラスモールド工法と金型技術を組み合わせることにより、従来工法と比べて高歩留まりかつコストの半減を実現した。 - コア3事業を2030年までに2.5倍の9000億円に、パナソニックの描くデバイス戦略
パナソニック インダストリー社は2021年11月19日、2022年4月から持ち株会社制への移行を控えた新体制の方向性について、同社社長の坂本真治氏による社長懇談会を開催し、報道陣の合同取材に応じた。 - “現場が自分でできる”を拡大へ、パナソニックが描くFAソリューションの理想像
パナソニックは、「IIFES 2022」(リアル展、2022年1月26〜28日、東京ビッグサイト)に出展し、センサーやコントローラー、モーションなどの豊富な機器ラインアップを組み合わせることで実現できる製造現場課題に対するソリューション提案を行った。大掛かりな仕組みにより大企業でしか実現できない仕組みではなく「現場が自ら解決できる世界」の実現を目指す。