傷の自己治癒を促進する、自律発電型のナノ発電パッチ:医療機器ニュース
物質・材料研究機構は、圧電または摩擦帯電材料を用いた自律発電型の創傷被膜用ナノ発電素子の開発研究に関する、国立精華大学(台湾)のレビュー論文について発表した。
物質・材料研究機構(NIMS)は2022年1月31日、圧電または摩擦帯電材料を用いた自律発電型の創傷被膜用ナノ発電素子の開発研究に関する、国立精華大学(台湾)のレビュー論文について発表した。この論文は、NIMSなどが出版、編集を支援する国際科学雑誌「Science and Technology of Advanced Materials(STAM)」に掲載されている。
ナノ発電素子は、創傷部位に電気刺激を与えることで、傷の治癒や組織の再生を促す創傷被膜剤(パッチ)として研究、開発が進んでいる。今回の論文では、圧電または摩擦帯電材料を用いた自律発電型パッチに用いる、ナノ発電素子に注目した。
圧電材料は、加えられた力に応じて電気を発生する誘電材料だ。これまでさまざまな研究が実施されており、生体適合性のある酸化亜鉛(ZnO)をパッチに使用して傷の治癒促進に成功した例、圧電特性、化学安定性、生体適合性、加工性に優れたポリフッ化ビニリデン(PVDF)を足場剤のポリウレタンに埋め込んだパッチで有望な結果を得た例などがある。
また、別タイプのナノ発電素子となる摩擦帯電ナノ発電(TENG)は、2種類の材料を少しの隙間を空けて向かい合わせに置き、各材料の相対的な位置変化で静電気を起こして発電させる。TENGを開発する研究グループでは、ネズミにTENGを装着し、呼吸による体の動きを電気に変換することで、傷の治癒促進に成功した。このTENGパッチは、負に帯電しやすいCu/ポリテトラフルオロエチレン層と正に帯電しやすいCu層の両層の位置ずれから静電気を発生させるが、さらに抗生物質も加え、傷の感染を抑制して治癒効果を高めている。
国立精華大学では、圧電または摩擦帯電材料を用いたナノ発電素子は、創傷の自己治癒を助ける被膜剤として優れた候補だとする。一方で、傷の大きさに合わせた被覆材のサイズ調整や創傷部位からの滲出液による影響など、実際の医療応用にはまだ課題が残る。今後、これらの課題を解決し、医療応用が可能な高効率の創傷被覆システムの開発を目指すとしている。
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