NVIDIAが買収断念したArm、新CEOの下で「半導体業界史上最大の上場」へ:製造マネジメントニュース
NVIDIAとソフトバンクグループ(SBG)は、NVIDIAがSBGからArmの株式を取得する契約を解消したと発表。両社は取引完了に向けて取り組みを進めてきたが「これを阻む規制上の大きな課題があった」ため契約の解消に至ったという。併せてSBGは、2022年度中を目標とするArmの株式上場の準備に入ることを明らかにした。
NVIDIAとソフトバンクグループ(SBG)は2022年2月8日、NVIDIAがSBGからArmの株式を取得する契約を解消したと発表した。両社は取引完了に向けて取り組みを進めてきたが「これを阻む規制上の大きな課題があった」(ニュースリリースより抜粋)ため契約の解消に至ったという。併せてSBGは、NVIDIAへの株式売却に代わり、2022年度(2023年3月期)中を目標とするArmの株式上場の準備に入ることを明らかにした。
2020年9月の発表では、NVIDIAがSBGとソフトバンク・ビジョン・ファンドから、半導体IPベンダー大手であるArmの株式を約400億米ドル(約4兆6100億円)で買収することで最終合意している。取引完了については、英国、中国、EU、米国など各国規制当局の承認を得る必要があるため、発表から18カ月後の2021年12月になる見込みとしていた。
しかし、Armが本拠を置く英国においてNVIDIAによる買収を認めるべきではないという意見が多く出ていた他、買収を完了するはずだった2021年12月には米国の連邦取引委員会(FTC)が、NVIDIAのArm買収は競争上の懸念があるとして、それを阻止するために訴訟を起こす方針を明らかにしている。これらの“買収を阻む規制上の大きな課題”を解消するめどが立たないことから、NVIDIAはArmの買収を諦めることになったとみられる。
なおSBGは、NVIDIAへのArm株式売却の契約に基づき、売却対価の前受金として12億5000万米ドル(約1438億円)を受領している。この前受金は、契約の条項に基づき返金の義務はなく、SBGの2022年3月期第4四半期に利益として計上されることになる(Arm株式の持分に応じて前受金の24.99%はソフトバンク・ビジョン・ファンドに帰属する)。NVIDIA側も、同契約に基づきArmのライセンスを20年間保持するとしている。
NVIDIA CEOのジェンスン・フアン(Jensen Huang)氏は「NVIDIAとArmは1つの会社にならなかったが、今後もArmをライセンシーとして支援し密接に連携していく。ArmのCPUは、クライアントコンピューティングだけでなく、スーパーコンピューティング、クラウド、AI(人工知能)、ロボティクスにまで活用の範囲が広がっており、次の10年で最も重要なCPUアーキテクチャになるだろう」と語る。
一方、SBG 会長兼社長執行役員の孫正義氏は「Armはモバイル革命にとどまらず、クラウド、自動車、IoT(モノのインターネット)、メタバースなどにおける技術革新の中心となり、第二の成長期に入った。これを機にArmを上場させ、さらなる飛躍をしたいと思う。2つの素晴らしい企業を一緒にしようとしたNVIDIAのジェンスン(・フアン氏)と彼の優秀なチームに感謝する」と述べている。
なお、NVIDIAによるArm買収断念の発表と同日、ArmはCEOの交代を発表している。これまでCEOと取締役会メンバーを務めてきたサイモン・シガース(Simon Segars)氏が両職を退任し、2017年からArm IPプロダクトグループ(IPG)のプレジデントを務めてきたレネ・ハース(Rene Haas)氏がCEOと取締役会メンバーに就任する。
ハース氏は半導体業界での経歴は35年に上る。Armへの入社は2013年だが、それ以前は、今回買収を取りやめたNVIDIAに7年間在籍し、コンピューティング製品事業担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めていた。
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