2D図面の“一義性”を考える【その7】寸法補助記号と穴寸法の表し方:3D CADとJIS製図(9)(3/3 ページ)
連載「3D CADとJIS製図の基礎」では、“3D CAD運用が当たり前になりつつある今、どのように設計力を高めていけばよいのか”をテーマに、JIS製図を意識した正しい設計/製図力に基づく3D CAD活用について解説する。第9回も引き続き「寸法補助記号」の残りを紹介しつつ、「穴寸法」の表し方を取り上げる。
3.穴の寸法の表し方
続いて、穴寸法です。詳しくは「JIS B 0001:11.7 穴の寸法の表し方」に規定されていますが、項目が多いのでポイントだけ紹介します。
穴の加工方法による区別
工具の呼び寸法または基準寸法、加工方法の区別を加工方法の用語あるいは加工記号により記入します。なお、加工方法記号は「JIS B 0122:1978 加工方法記号:Symbols of metal working processes」よって規定されています。
加工方法 | 簡略表示 | 簡略表示 加工方法記号 (JIS B 0122) |
説明 |
---|---|---|---|
鋳放し | イヌキ | − | 鋳物の穴加工が必要な箇所に、中子(なかご)を使って鋳物の材料が流れない場所を作り、穴を残す加工 |
プレス抜き | 打ヌキ | PPB | 金型により行うせん断加工 |
きりもみ | キリ | D | ドリルによる加工 |
リーマ仕上げ | リーマ | DR | ドリルなどで開けた穴をリーマを用いて高精度/表面粗さ良好な仕上面に加工する |
表1 穴加工方法の簡略表示 |
素朴な疑問ですが、「キリ」と「Φ(ファイ)」は何が違うのでしょうか? 前回説明した通り、Φの使い方はJISに規定されています。キリは指定したサイズのドリルを使用して穴加工をします。例えば、「10キリ」であれば「Φ10mmのドリルを使用して穴開けをする」という指示になります。Φ10mmのドリルで穴を開けた場合、Φ10mmの穴が保証されているわけではありません。一方、Φは加工後の穴の直径を指示しているので、意味合いが異なります。
1つのピッチ線、ピッチ円上に配置される一群の同一寸法
穴から引出線を引き出して、参照線の上側にその総数を示す数字の次に「×」を挟んで穴の寸法を指示します。
穴の深さ
穴の直径を示す寸法の次に、穴の深さを示す記号「★(注1)」に続けて深さの数値を記入します。貫通穴の場合、穴の深さを記入しません。また、深さの定義については、ドリルの先端の円すい部分、リーマの先端の面取り部分を含まない円筒部の深さとなります。傾斜する穴の場合は中心軸線上の長さ寸法で表します。
ざぐり/深ざぐり
ざぐりを付ける穴の直径を示す寸法の前に、ざぐりを示す記号「☆(注2)」に続けてざぐりの数値を記入します。なお、2010年のJIS改正により「穴とざぐりの表記は直列または並列に表記してもよい」となりました(図13)。
ここでまた疑問ですが「ざぐり」と「深ざぐり」は何が違うのでしょうか? これは“浅いざぐり”と“深いざぐり”を示しているわけではありません。正しくは、ざぐりはその深さを指定しませんが、深ざぐりはその深さを指定するという違いがあります。ただし、JISには「鋳造品、鍛造品などの表面を削り取り平面を確保する場合にはその深さを指示する」と規定されています。また、ざぐりの深さが浅い場合、「図面にはそのざぐり形状を省略してもよい」とも記載されています。
深ざぐりの底の位置を、反対側の面より寸法値を規制する必要がある場合は、その寸法線を指示します。JISではこの穴寸法の矢印が穴に付いています(図14)。
穴寸法については、企業ごとのルールや使用するCAD環境により、表示内容が違ってくると思いますが、あらためてJISを眺めて見ると、その解釈や改正内容に気付かされることもあるので、折を見てJISに目を通しておくとよいでしょう。
次回は「機械要素」について解説します。お楽しみに! (次回へ続く)
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