覚醒下開頭手術の覚醒度の指標として、握力が有用であることを確認:医療技術ニュース
京都大学は、脳腫瘍患者の覚醒下開頭手術において、握力が覚醒下の神経モニタリングの指標となり得ることを明らかにした。握力を用いることで、術中の正確な神経モニタリングが可能になり、腫瘍摘出後の機能障害の回避に役立つことが期待される。
京都大学は2022年1月11日、脳腫瘍患者の覚醒下開頭手術において、握力が覚醒下の神経モニタリングの指標となり得ると発表した。
覚醒下脳腫瘍摘出術は、手術中に全身麻酔を休止して、患者の脳機能を温存しながら脳腫瘍を摘出する手法だ。覚醒下の神経モニタリングをすることで、腫瘍を最大限取り除きつつ、術後の障害リスクを最小化できる。
研究グループは、覚醒下開頭手術を受ける脳腫瘍患者23人を対象に、全身麻酔休止後の覚醒度および握力を測定した。覚醒度の測定には、従来の指標である全身麻酔薬プロポフォールの血中濃度、同じく覚醒度の指標であり脳波などから算出される麻酔深度値モニター(BIS値)、覚醒度の評価スケール「Japan Come Scale(JCS)」を用いた。
その結果、病巣と同じ側の手である健側の握力は、プロポフォール血中濃度、BIS値、JCSと関連しており、覚醒度が上がるにつれて増大することが分かった。また、BIS値よりも健側握力の方が良好な覚醒度の識別能力が高いこと、正確な神経モニタリングをするには、健側の握力が手術前の75%まで回復し、良好な覚醒度を確認したタイミングで実施するのが良いことも分かった。
手術中に病巣と反対側の手である患側に運動障害が見られた場合、覚醒が悪いのか運動まひが生じたのか判別しづらい。一方、この手法を用いれば、患側と健側の握力を比べることで判断できる。
握力を覚醒度の指標に利用することで、より正確な神経モニタリングが可能になり、腫瘍摘出後の運動機能、言語機能障害の回避に役立つことが期待される。
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