傷痕を残さない、イモリの皮膚再生過程の全容を明らかに:医療技術ニュース
筑波大学は、アカハライモリの成体を用いて、体のさまざまな部位の皮膚を切除した後、皮膚が再生する様子を傷表面の継時観察と傷内部の組織解析により詳細に調査し、皮膚再生過程の全容を解明した。
筑波大学は2021年12月24日、アカハライモリの成体を用いて、皮膚切除後の再生の様子を、傷表面の継時観察と傷内部の組織解析で調査し、皮膚再生過程の全容を明らかにしたと発表した。慶應義塾大学、信州大学、日本歯科大学、宇都宮大学との共同研究による成果だ。
一般的にヒトを含む四肢動物は、変態やふ化、出生後は、組織や臓器の再生能力を失う。一方、イモリは、生涯にわたって体のさまざまな部位を何度も再生できる。
今回の研究では、アカハライモリの体のさまざまな部位から皮膚全層を切除し、再表皮化や線維化の有無、肌のきめの回復、分泌腺などの皮膚付属器の回復、色の回復について評価した。その結果、イモリの皮膚は素早く傷口を閉じ、傷痕にならず基本的に同じ様式でほぼ完全に再生した。肌のきめや皮膚付属器、色合いなども、時間はかかるものの回復した。
こうした傷痕を残さない皮膚再生の仕組みを調べるため、イモリの皮膚再生とヒトの皮膚の傷痕の治癒過程を比較。イモリはヒトに比べて再表皮化が早期に完了し、炎症反応を低く抑えて、肉芽組織や傷痕を形成しないことが分かった。
一方、ヒトでは、傷口を覆うかさぶたの下で炎症が起こり、コラーゲン線維や毛細血管を主体とした線維性結合組織で覆われて肉芽組織が形成される。それに伴って表皮が伸長し、傷口を閉じる。肉芽組織の形成は創傷治癒に必要と考えられているが、同時に傷痕の原因となる線維化が生じる。
一般に傷口を閉じる表皮は、傷口周囲の狭い範囲の皮膚(皮膚切断端)に局在する表皮幹細胞が激しく分裂することで生じると考えられている。イモリの皮膚の再表皮化過程を見たところ、皮膚切断端の細胞分裂頻度はほぼ変わらなかった。しかし、失われた皮膚周囲の広範な領域で、表皮幹細胞の分裂頻度が約2倍に高まっており、表皮組織の細胞数を全体としてわずかに増加させた。この増加分を傷口に押し出すことで、素早く傷口が閉じることが分かった。
イモリの皮膚では、この再表皮化原理を利用して、傷痕になることを回避していると考えられる。今後は、再表皮化の遅れや炎症の長期化が、肉芽組織形成や線維化、肌のきめの回復などに影響するか検証を進める。さらに、イモリとヒトの進化的に相同な器官、組織、細胞の外傷後の変化を分析、比較することで、ヒトの医療に生かすべく研究を進める。
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