アトピー性皮膚炎の尿中バイオマーカーとなり得る、脂質代謝産物を発見:医療技術ニュース
東京大学は、アトピー性皮膚炎のモデルマウスやアトピー性皮膚炎患者の尿中に、脂質の代謝産物が多く排せつされていることを確認した。採血を必要としないバイオマーカーの開発につながることが期待される。
東京大学は2021年10月1日、アトピー性皮膚炎患者の尿中に、脂質の代謝産物が多く排せつされていることを確認したと発表した。子どもからも採取しやすい、尿を用いたバイオマーカーの開発につながることが期待される。国立成育医療研究センター、国際医療福祉大学の共同研究による成果だ。
今回の研究では、アトピー性皮膚炎とアトピー性ではない皮膚炎のモデルマウスを作製し、尿中に排せつされる脂質代謝物を解析した。その結果、アトピー性皮膚炎モデルマウスでは、プロスタグランジン(PG)類の代謝物である13,14-dihydro-15-keto-tetranor-PGF1αや13,14-dihydro-15-keto-tetranor-PGE2、13,14-dihydro-15-keto PGJ2が確認できた。
PGは脂質から合成される生理活性物質で、血圧や炎症などの調節に関わる。アトピー性皮膚炎マウスでは、症状の悪化に伴って、PGの代謝物の尿中濃度が上昇していた。一方、アトピー性皮膚炎ではないモデルマウスでは、その尿中濃度に変化はなかった。
アトピー性の炎症を起こした皮膚を確認したところ、これらの脂質を合成する酵素のmRNAとタンパク質の発現が上昇した。つまり、これらの脂質代謝産物は、アレルギー性の炎症を起こした皮膚細胞で産生されていることが分かった。
この結果を基に、アトピー性皮膚炎患者と湿疹のない患者の尿中脂質を比較した。アトピー性皮膚炎患者では、モデルマウスと同様に、その尿中にこれらの代謝物が多く排せつされていた。
アトピー性皮膚炎の重症度の検査には、血清バイオマーカーの測定が広く用いられている。乳児期に発症することが多く、苦痛を伴う採血を必要としないバイオマーカーが求められていた。
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