アトピー性皮膚炎のかゆみを脳に伝えるために必要な物質を発見:医療技術ニュース
九州大学は、アトピー性皮膚炎のかゆみが脳に伝わる際に、神経伝達物質「ニューロキニンB」が必要であることを発見した。同物質は受容体NK3Rを介して機能するため、NK3Rの阻害剤はアトピー性皮膚炎のかゆみを制御するための選択肢となり得る。
九州大学は2019年8月16日、アトピー性皮膚炎の「かゆみの感覚」を脳に伝えるために必要な物質を発見したと発表した。同大学生体防御医学研究所 主幹教授の福井宣規氏らと富山大学大学院の共同研究グループによる研究成果だ。
アトピー性皮膚炎発症において、「IL-31」は主要なかゆみ惹起(じゃっき)物質として知られている。その受容体は、感覚情報の中継点として機能する脊髄後根神経節に高発現するが、IL-31がどのようにかゆみの感覚を脳に伝えているかは分かっていなかった。
同研究グループは、これまでの研究からDOCK8という分子を欠損した患者が重篤なアトピー性皮膚炎を発症することに着目してきた。DOCK8を欠損したマウスは、重篤なアトピー様皮膚炎を自然発症し、血中のIL-31が異常高値を示す。
そこで、DOCK8欠損マウスの脊髄後根神経節で発現が上昇する遺伝子を調べたところ、698種類あり、その上位2番に位置していたのが、神経伝達物質のニューロキニンBをコードする遺伝子だった。さらに、ニューロキニンBが、IL-31刺激依存的に脊髄後根神経節で産生されることが確認された。
次に、ニューロキニンBを発現できないように遺伝子操作したマウスを作製し、IL-31を投与した。その結果、このマウスは通常のマウスに比べて、引っかき行動が明らかに低下した。他のかゆみ惹起物質(ヒスタミン、クロロキン、PAR2作動薬)については、マウス間での違いが見られなかったことから、ニューロキニンBは、IL-31によるかゆみ感覚の伝達に選択的に関わっていることが分かった。
続いて、かゆみの感覚がどのように脳に伝わっているかを調べた。かゆみ惹起物質の多くは、NppbやGRPという神経伝達物質を使っている。これらの伝達物質とニューロキニンBの関係を調べると、ニューロキニンBはGRPの上流で機能し、GRPを使ってIL-31によるかゆみ感覚を脳へ伝達していることが示された。
ニューロキニンBがかゆみを伝える際は、NK3Rという受容体を介して機能する。NK3Rの選択的阻害剤をマウスに投与したところ、ヒスタミン、クロロキン、PAR2作動薬による引っかき行動には全く影響がなかったのに対し、IL-31による引っかき行動は明らかに抑制された。
今後、NK3R阻害剤がアトピー性皮膚炎のかゆみを制御するための新たな選択肢となることが期待される。
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