アトピーに新治療、皮膚バリアや保湿を担うタンパク質を発現する物質を同定:医療技術ニュース
京都大学が、皮膚バリア機能、保湿機能を担う重要なタンパク質フィラグリンの発現を誘導する内因性物質として、リゾホスファチジン酸(LPA)を同定した。アトピー性皮膚炎など皮膚のバリア機能が低下する疾患の新治療法開発につながる成果だ。
京都大学は2018年11月16日、皮膚バリア機能、保湿機能を担う重要なタンパク質、フィラグリンの発現を誘導する内因性物質として、リゾホスファチジン酸 (LPA)を同定したと発表した。同大学大学院医学研究科特任教授 成宮周氏らの共同研究グループによる成果だ。
同研究では、まずヒト新生児の皮膚から表皮細胞を採取し、フィラグリン遺伝子の発現誘導を安定的に測定できる実験条件を確立した。次に、GPCR(Gタンパク共役型受容体)アレイを用いて、細胞内のシグナル伝達に関与する受容体遺伝子発現について網羅的なスクリーニングを実施し、フィラグリン遺伝子発現に関わる内因性物質を探索した。
その結果、ヒト角化細胞に高発現するGPCRを同定し、そのうちの1つであるEDG2/LPAR1受容体に特異的に結合するリゾホスファチジン酸(LPA)が、濃度依存的にフィラグリン遺伝子発現を誘導することを発見した。
LPA受容体は、LPAR6を介した発毛促進機能は知られているが、表皮細胞においてどのLPA受容体がフィラグリン発現に関与するのかは不明だった。研究グループが各種 LPA受容体に対し、結合によって活性化させる作動薬や活性化させない遮断薬、任意の遺伝子の発現を抑制するRNAi法などを用いて確認したところ、LPAR1とLPAR5の2つの受容体が、ヒト表皮細胞におけるLPA依存性のフィラグリン発現誘導に不可欠であることが分かった。
また、これらの受容体にはG12/13 タンパクが共役し、Rho-ROCK-SRFシグナル伝達経路を介してフィラグリン発現を誘導することも確認した。
さらに、LPAにはヒト表皮細胞の分化を促す遺伝子群を広範に誘導する作用があることを解明。皮膚バリア機能が低下したマウスの皮膚にLPAを塗布したところ、皮膚保湿機能が改善され、バリア機能が向上していた。
LPAは内在性の生理活性脂質であるため、アトピー性皮膚炎や乾癬など皮膚のバリア機能が低下する疾患に、少ない副作用でより効果的な治療をもたらす可能性がある。同研究グループは今後、それぞれの皮膚疾患におけるLPAとシグナル伝達経路の変化を詳細に解析するなどして、新しい治療法の開発につなげるとしている。
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