日産とJAXAが月面探査車のスタック防止に挑戦、駆動力制御は乗用車にも展開:電気自動車
日産自動車は2021年12月2日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究中の月面探査車(ローバ)の試作機を公開した。
日産自動車は2021年12月2日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同研究中の月面探査車(ローバ)の試作機を公開した。
両者は2020年1月から、月面ローバがスタックしないための駆動力制御技術を研究してきた。共同研究の期間は残り1年ほどで、月面ローバでの開発技術の採否は未定だ。しかし、砂地に覆われ走行しづらい月面での制御技術の知見は、市販の電動車で四輪制御技術を進化させていく上でも役立つ。JAXAとしても、宇宙探査だけでなく、地上でのイノベーション創出にもつながる技術の共同研究を重視している。宇宙探査と地上のビジネスの両方に貢献する技術として、開発に取り組んでいく。
月面はサラサラの砂、スタックせずに走るのは難しい
探査の対象となる月面や火星は、岩石由来の粒子やガラス片、粉末などから成るレゴリスという細かくサラサラした砂に覆われている。ローバなどの車輪はレゴリスに埋もれやすく、簡単にスタックしてしまう。過去にも、米国航空宇宙局(NASA)の火星ローバがスタックして探査の継続が困難になった例がある。
ローバはスタックしない走行性能が求められるが、バッテリーの搭載量や発電など電力が限られる中で探査を行うため、消費電力を抑えながら効率的に走らなければならない。スタックした状態から抜け出そうとすると電力の消費が大きくなるので、そもそもスタックしないように走ることが重要になる。
日産とJAXAは、月面ローバがスタックしないための車両制御を目指して共同研究を進めてきた(スタックした場合を想定し、抜け出すための制御も開発している)。共同研究は砂地をローバが走行するメカニズムを把握するところからスタートした。ローバのハードウェアはJAXAが、走行の制御ソフトウェアを日産が担当した。
ローバは時速1〜2kmと非常に低速で走行するが、細かい砂であるレゴリスの上をスタックしないように走るのは、自動車でぬれた路面や雪道、オフロードを走行するよりも難しい。室内に月面の砂地を再現したJAXAの探査フィールドを活用し、ローバのタイヤがどのようにして砂に沈むかデータを収集して定量的に分析した。
その結果、タイヤの空転によってタイヤが沈み込み、砂の抵抗が大きくなって進めなくなる悪循環が生まれるため、空転量を抑えることが重要であると分かった。砂の抵抗よりも駆動力が勝り、かつエネルギー効率のよい最適なポイントを場面に合わせて抑えることが重要になる。
タイヤの空転量の大小は砂の抵抗とクルマが進もうとする力の微妙なバランスによって決まるため、砂地のシミュレーション化にも取り組んだ。砂はタイヤによって1粒1粒が動いて状態が刻々と変化するため、データで再現するのが困難だったが、JAXAと砂地のシミュレーションを共同開発した。
シミュレーションなどを活用して開発した制御は、乗用車に搭載して効果を検証した。制御をオンにすると、オフの場合と比べて沈み込みが少なく、砂をかき分けずにスムーズに前進できることが分かった。なお、実際に月面ローバとして走るには空気を入れるゴムタイヤを使うことができないなど制御以外の技術領域も影響する。
共同研究の成果は量産車にも
路面の状態に合わせて四輪をきめ細かく制御することは、オフロードに限らず、雪道など日常的な場面での走行性能の向上にも直結する。レゴリスと比べて、乗用車が日常的に走る路面は難易度が低い。今後、日産が展開を増やす電動車の四輪駆動(4WD)システムにも成果を活用し、電動車ならではの走行性能の魅力向上につなげていく。
日産は2022年夏以降に、新型EV(電気自動車)「アリア」の4WDモデルを発売する。前後輪に合計2基のモーターを搭載し、それぞれのトルクを個別にコントロールする「e-4ORCE」がアリアに搭載される。減速時に車両が前のめりになる沈み込みを減少させる他、コーナリングでのライントレースがしやすくなる。JAXAと共同開発した砂地での四輪制御技術は、e-4ORCEの今後の進化に貢献するとしている。
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