宇宙にも光ネットワークを張り巡らすIOWN構想、2025年には宇宙データセンターも:宇宙開発
NTTは、「NTT R&Dフォーラム Road to IOWN 2021」において、宇宙空間と地上の間の通信の制約を取り払う「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」を紹介した。低軌道(LEO)〜静止軌道(GEO)に中継衛星を設置して宇宙空間に多層の光ネットワークを張り巡らすとともに、静止軌道から地上とも光通信を行えるようにする。
日本電信電話(以下、NTT)は、オンライン開催の技術イベント「NTT R&Dフォーラム Road to IOWN 2021」(2021年11月16〜19日)において、宇宙空間と地上の間の通信の制約を取り払う「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」を紹介した。低軌道(LEO)〜静止軌道(GEO)に中継衛星を設置して宇宙空間に多層の光ネットワークを張り巡らすとともに、静止軌道から地上とも光通信を行えるようにする。同ネットワークと静止軌道に配置する宇宙データセンターにおけるデータの収集・分析を組み合わせることで即時性の高い宇宙サービスなどを提供できるようになるという。
現在、低軌道を周回する衛星は、地上との間の無線通信を一般的な電波を用いて行っているが、地球の自転スピードよりも高速で移動しているため約90分の周回時間のうち数分程度しか地上と通信できないという課題がある。
宇宙統合コンピューティング・ネットワークは、電波だけではさまざまな制約がある宇宙空間における通信において、より高速でより遠方に届く光通信を活用しようという取り組みだ。NTTは、光ベースの革新的ネットワーク構想「IOWN(Innovative Optical & Wireless Network、アイオン)」を推進しており、地上での活用を目指して開発が進む光通信技術を宇宙空間でも活用するべく、宇宙統合コンピューティング・ネットワークの取り組みを進めている。
同ネットワークは、高高度から静止軌道までを光通信で結ぶ多層的構成になっている。まず、成層圏に近い高高度では、空飛ぶ基地局と呼ばれているHAPS(High Altitude Pseudo Satellite)があり、HAPS間を光ネットワークで結ぶことで携帯電話通信のカバー範囲を拡大できる。先述した低軌道で地球上のさまざまなデータを収集している各種衛星との通信については、低軌道でもより高い高度に中継衛星を分散配置し、これらの各種衛星と光ネットワークで結ぶ。そして静止軌道に配置する宇宙データセンターは、光ネットワークで結ばれた低軌道の中継衛星からのデータを収集・分析する機能と、データや分析結果などを光もしくは電波を使って地上に送信する機能を有する。
NTTとスカパーJSATは2021年5月、地上と宇宙のセンシングデータ統合基盤となる宇宙センシング事業、宇宙における大容量通信・コンピューティング基盤を目指す宇宙データセンター事業、Beyond5G/6Gにおけるコミュニケーション基盤となる宇宙RAN(Radio Access Network)事業に取り組むため、宇宙に光ネットワークを張り巡らす宇宙統合コンピューティング・ネットワークの構想を発表した。
実際の取り組みとしては、NTTとJAXAの2019年11月の提携に基づき2022年に打ち上げる衛星を用いて技術実証を開始し、2025年にはNTTとスカパーJSATとの提携に基づいて宇宙データセンターを打ち上げる計画だ。
また、NTTドコモとエアバスが、成層圏を飛行するHAPSから地上の受信アンテナに向けたUHF帯の電波伝搬測定実験を実施しており、この取り組み成果も宇宙統合コンピューティング・ネットワークと今後連携していくことになるという。
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