レーザー照射時の反力を活用、スカパーがスペースデブリ除去方法を考案:宇宙開発
スカパーJSATは2020年6月11日、宇宙空間を漂うデブリをレーザー光を活用して除去する専用衛星の設計、開発に着手すると発表した。レーザー搭載衛星を用いたスペースデブリ除去事業を2026年中に開始すると予定している。
スカパーJSATは2020年6月11日、オンラインで記者会見を開催し、宇宙空間を漂うスペースデブリ(宇宙ごみ)をレーザー照射で移動させて除去する専用衛星の設計、開発に着手すると発表した。同社はレーザーを衛星を用いたスペースデブリ除去事業を2026年中に開始する予定である。
デブリは宇宙開発を進める上で脅威的な存在だ。理由はデブリの移動速度にある。地上から高度約700〜800kmの地帯ではデブリの移動速度は時速約2万7000kmにも達し、たとえ1cm程度の小さな破片のようなデブリでも、時速70〜80kmで走行する小型車が衝突したのと同程度の衝突エネルギーが発生するという。このため、万が一にでも運用中の衛星などと衝突すれば深刻な被害をもたらしかねない。
現在、宇宙空間には10cm以上のデブリが約3万4000個、1cm〜1mm程度の大きさのデブリは約1億3000万個存在すると推測されている。こうした状況を踏まえて、スカパーJSAT デブリ除去プロジェクト プロジェクトリーダー 福島忠徳氏は「昨今、米国のスタートアップSpaceXに代表されるような、小型衛星の大量打ち上げ計画を推進しているメガコンステレーションも増加している。今後10年の間に打ち上げられる衛星の数はスプートニクの打ち上げから60年間で人類が打ち上げてきた衛星の数を大幅に上回る。低軌道帯では衛星の混雑化が進み、デブリの脅威がより増すだろう」と指摘した。
こうしたデブリ問題の解決策としてスカパーJSATが考案したのが、レーザーを搭載した専用衛星でデブリを除去するという方法だ。デブリに対して遠隔からレーザーを照射して推力を与え、宇宙空間から緩やかに大気圏へと移動させる。なお除去対象のデブリには、運用中止などで不要化した衛星などを想定している。
レーザー照射によって推力が発生するメカニズムには「レーザーアブレーション」という現象が大きく関わっている。物質にレーザー光を照射すると、レーザーが当たった部分がプラズマ化、あるいは気化を起こして物質を放出する。これがレーザーアブレーションであり、この際に生まれた反力を利用してデブリを動かす。デブリの素材次第でどの程度の推力が発生するかを事前に把握しておけば、移動途中に他の物体と衝突するなど予期せぬアクシデントも防げるという。
「レーザーといってもSF映画で出てくるような破壊力はなく、非常に微弱な力しか生み出せない。地上では1円玉1枚を動かすことも出来ない程度だ。ただ、これを美容レーザーのように瞬間的に照射し続けることで、デブリを徐々に動かせる」(福島氏)
またデブリを除去する手段としてレーザーに注目した理由について、福島氏は「大きな理由は2つある。1つは安全性だ。デブリに接触することなく安全な距離からデブリを動かせる。ゆっくりとしか動かせない分、デブリ1つ当たりの処理時間はかかるが、作業中に事故が発生しにくい。もう1つは経済性で、もう1つは経済性で、衛星に搭載する太陽光発電システムの電力でレーザーを照射するので、デブリを移動させるための燃料を宇宙空間まで運搬する必要がなく、その分低コストで除去が可能だ」と説明した。
レーザーと衛星の設計、開発は大学や研究機関などと連携して現在進めている。レーザーアブレーションを発生させるためのサブシステム開発は理化学研究所が、レーザー照射方法の研究は名古屋大学、デブリ化した不要衛星の回転運動のシミュレーション研究は九州大学がそれぞれ協力を行っている。また、JAXAは共創型研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」を通じて開発に関する共同の取り組みを行っている。
福島氏は今後の展望について「デブリを除去して宇宙をサステイナブルな環境に保つこと。これは宇宙のSDGs(持続可能な開発目標)とも呼べる取り組みだ。過去30年間にわたって宇宙事業を展開してきた当社だからこそ、ぜひビジネスとして成立させていきたいと思っている」と語った。
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