“製造強国”を目指して動き出す世界、日本のモノづくり復興のカギはどこに?:異色の日本人社長が見た米国モノづくり最前線(1)(2/2 ページ)
オランダに育ち、日本ではソニーやフィリップスを経て、現在はデジタル加工サービスを提供する米プロトラブズの日本法人社長を務める今井歩氏。本連載では、同氏が見た米国のモノづくりに焦点を当てながら、日本のモノづくり復興のカギとは何か、日本の製造業の未来について考えていきます。
最終価値を生み出すのは「モノ」
現在の企業時価総額世界ランキングを見てみると、上位にはAmazon.com(アマゾン)やApple、Alphabet(Googleの親会社)、Microsoft、FacebookといったIT企業の名が並んでいて、製造業からはTesla(テスラ)や台湾の半導体企業の名前がわずかに見られる程度。若者たちの中には、製造業を「斜陽産業」あるいは「オールドエコノミー」と思う人もいるかもしれません。
確かに、IT産業は多くの優秀な人材を雇用し、そこでは巨額な投資資金が活発に動いています。しかし、実際、ITの得意とする仮想世界は人々のためにどれだけの価値を生み出しているのでしょうか?
筆者自身が“製造業びいき”ということもありますが、仮想世界よりも物理的な「モノ」の方が、多くの価値を生み出しているのではないかと思っています。人々の人生を豊かにするのは、最終的にはカタチのあるモノなのです。
例えば、アマゾンで買物をしたとき、最終的に消費者を喜ばせるのは便利な買物の仕組みではなく、購入した商品(モノ)です。仕組みよりもモノの方が多くの喜びを与えてくれると筆者は信じています。だからこそ、日本の製造業の進化を応援したいのです。
20年以上前、ソニーに入社したころ、日本の製造業は今よりも冒険心に満ちあふれていました。ペットロボット「AIBO(アイボ:現在の表記は“aibo”)」の開発など奇抜なアイデアに経営層もGOサインを出し、ある意味とても面白い時代でした。これから長期的な目標を持って、国が真剣に製造業をサポートする気になり、実効力のある施策が打ち出されれば、またそんな時代がやってくるのではないでしょうか。
先日、長く続いている成形会社を訪ねました。彼らは緻密な職人技で信じられない精度の金型を製造していました。とても自動化などでまねできる仕事ではありません。
そうした職人技が生きるデジタルマニュファクチャリングの仕組みはどうすれば実現できるのでしょうか。長期的な目で将来を見つめ、産官学が連携して戦略的に取り組むならば、それは実現可能なはずです。次回からそのヒントを探るべく、米国の製造業の取り組みを産業別に見ていきます。 (次回へ続く)
Profile
今井歩(いまい あゆむ)
オランダの工科大学で機械工学を学び、米国Harvard Business Schoolで経営学を修める。日本ではソニーやフィリップスに勤務し、材料メーカーや精密測定機メーカーの立ち上げにも関わり、現在はデジタル加工サービスを提供する米企業Proto Labs(プロトラブズ)日本法人の社長を務める。
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